トップページに戻る

 

 


 

2022/05/30

どうなる教員免許更新制 リターンズ14 最終回

Tweet ThisSend to Facebook | by 星槎大学 事務局
2022年5月30日

1.更新講習を巡る国会での結論
 教育職員免許法と教育公務員特例法の改正案が、衆議院、参議院ともに可決された。基本原案通りであり、衆議院・参議院ともに附帯決議がつけられた。
 これにて更新講習は6月一杯で、廃止となることとなった。7月1日までには文部科学省から新制度に関するガイドラインが出る予定である。ついては、来月末の講習が最後となる。国会審議の中で、休眠中免許の復活は自動的にされることとなり、失効中の免許はできるだけ手続きを簡略化して再発行できるようにする方向となった。
 それゆえ、このコラムも今回で最終回にする。1年近く書いてきたので、今回は1day講習の中でよく話している内容と、テキストで触れている内容を出しつつも、最終まとめとする。
 さて、更新講習制度はなくなっても、学校を巡る課題が残るのは当たり前だ。景気と同じように、世の中の雰囲気が変わらなければ、教員を巡る状況はなかなか変わらない。ちとシビアな言い方をすると、「更新講習は廃止、でも……教員バッシングの空気は変わっていない」ような気がする。これでは、教員不足の流れは変わらない。という話は国会の議論では出てこなかった。国会では、教員はとても重要な役割を持った職である、なのに、この国ではとても大変な職となっている。その教員が不足していて、日本の教育は大変なこととなっている。教員という重要な職を守れという流れで進んでいた。世の中をよく見てほしいと思う。

2.この国の教育課題
 この国最大の教育課題は「不登校」の問題である。少子化傾向の中、現在でも年々増加しているのである。9年間の義務教育を享受できないこども達が増加する一方で、高等学校へはほぼ全員といえるこども達が進学し、その卒業者のうち大学・専門学校等進学するものがおよそ8割なのである。
 学習が好きだから進学しているというより、この国ではそれが主流派であるので、否が応でもそのルートに乗ろうとしている感じだ。僕が高校の現場で活動していたときにかけられた印象的な保護者の一言がある。ご子息は小学校からずっと不登校であった。星槎の高校に入学しその後毎日のように通学できるようになり、進路は東京の大学への進学と定め合格したときの話だ。「先生ありがとうございます。うちの子もやっと普通の子になれました」とお礼の言葉をいただいた。「よかったですね。でもこれからが大切ですから。」と応えたが、正直複雑な気がした。「普通になんかならなくていいのに」という言葉を飲み込んだのを思い出す。
 この卒業生をはじめ、色々な職について元気に過ごしているOBと会うと、彼らが彼らの色を出して社会で生きていることを確認するたびに、自分の人生を振り返って感謝の気持ちが湧いてくる。40歳を超えた卒業生が、家庭を持ち子育てで悩んでいる姿などみるにつけて、「人生だな」と思わずにはいられない。彼らから学んだものは数知れない。おそらくこれが、教師の魅力なんだろうなと実感する。
 この世の中、少しでもいい感じにならないかとの思いでやってきてよかった。そしてその気持ちは大学関連の仕事をしていても何一つ変わらない。ぜひ、こんな気持ちが未来に繋がっていけばと願っている。だからこそ、星槎大学の更新講習は「日本の先生を応援する」ことをミッションとしていたのだ。
 不登校の問題は、制度を変えれば解決することではない。現場が、こども達と家庭も含めて解決していく課題なのだ。そして、それを応援するために制度改革があるのだ。多くの方々が、教育の現場で活躍できる社会となることを祈っている。
 この件で気になっていることは、ICTの活用方法だ。ICTを活用することで、今までできなかったことができるようになるのは間違いない。インターネット環境があれば、世界を旅することもできるし、世界と繋がることもできる。学習に活用すれば、自分の苦手な傾向を把握して、繰り返し教えてくれる端末もある。いままでできなかったことができるようになることは素晴らしい。
 しかし、当たり前のことではあるが、何でもできるわけではないことを我々は強く認識すべきだ。あなたがあなたであることが重要なのだ。一人一人が、一人一人であることが大事なのだ。
 このようなことを十分認識しながらも、大いにICTやインターネットを文房具のように活用していくことが学校では間違いなく求められている。

3.先生方へ
 まもなく終わりになる更新講習を通じて最後の最後まで勉強させていただいた。
 最後になった今年は、文部科学省の言ってることが大転換して(リターンズ6参照)、久々に一度作成したテキストを短期間で編集し直すなどということもあった。その結果、かなり真剣に内容を見直した。世紀の変わり目に、いかに多くの教育関連の提言が世界でも日本でもあったかなど、多くの情報をテキストに入れることができた。更新講習がなくなった後でも、教育の現場に入ろうとするシニアにもぜひ提供したい出来である。
 さて、最後でもあるので、先生方にメッセージをお送りしたい。
 この国の教員バッシングは多分もうしばらく続いていく気がする。構造的に、今の状況を抜け出すのは時間がかかる。おそらく、皆さんの前にいる子ども達が、皆さんの日々の活動で活き活きと毎日生活していける経験を積み重ねて、その世代が親になったところで変わっていくと信じている。そこで初めて、人間の素晴らしさを伝えていけるようになるはずだからだ。
 近代は、合理的であることに向かって進んでいる気がする。その結果、教育の現場における働き方改革が、仕事に従事する時間の短縮のみに向かっているのは気になるところだ。個人的には「先生」という敬称で呼ばれるのは、何かこそばゆくて好きではないのだが、敬意はなくとも好意があるのであればいいかもしれないと思っている。今は亡き職場の恩師が言っていたのだが、「教え子にとって、先生は一生先生なんだから、恥ずかしい生き方をするな」という言葉は忘れたことはない。
 いつも誰かのことを考えていける、共生のための寛容さを持った人でいたいと考えている。
 「ありがとう」というマジックワードを、何より大切だと考える方は、ぜひ教育の現場で活躍してほしいと願っている。
 こんなやりがいのある仕事、そうそうありませんよ。

【情報】
 現在、文部科学省から「教員免許状を保有するものの教職には就いていない者または外部人材が教職に入職する際に活用できる、通信・放送・インターネット等を活用した教材・コンテンツを開発する事業」として、1day講習を基礎にした講習が採択されています。
 この講習は、おそらく8月募集開始で、9月から本格的に稼働できると思います。講習の情報は、新たな教師の学びのための検索システム に掲載予定です。修了証も発行する予定です。有料ですが、ぜひ受講を検討ください。

◆国会審議も終わりました。毎回多くの方に読んでいただきありがとうございます。遅ればせながら、感想などぜひ、メールで送信いただければありがたいです。 (松本) 
y_matsumoto@seisa.ac.jp

(スケジュール予測)
改正法 2022年5月11日成立 (同年7月施行)
2022年度受講対象者は、法令施行しだい制度適用見込み
2022年7月1日前後、文部科学省より新制度のガイドライン発出予定
研修新制度開始 2023年度

(著者紹介)
松本 幸広(まつもと ゆきひろ)
 埼玉県秩父郡長瀞町出身のチチビアン。学生時代宮澤保夫が創設した「ツルセミ」に参加。大学卒業後宮澤学園(現星槎学園)において発達に課題のあるこども達を含めた環境でインクルーシブな教育実践を行う。その後、山口薫とともに星槎大学の創設に従事し、いわゆるグレーゾーンのこども達の指導にあたる人たちの養成を行う。星槎大学においては、各種教員免許課程の設置をおこない、星槎大学大学院の開設も行う。「日本の先生を応援する」というコンセプトで制度開始時から更新講習に取り組んでいる。新たな取り組みである、「1day講習」の講師も務める。


08:37 | 投票する | 投票数(1) | コメント(0)