4月8日、衆議院文部科学委員会での教育職員免許法(以下「免許法」)と教育公務員特例法(以下「教特法」)の審議が終了した。前回お伝えした通りに審議は進み、更新講習廃止に関わる免許法の廃止にはみな賛成、教特法の研修に関する事項には所属政党に関わらず基本賛成だが、意見はあるので確認していくという路線で議論が続いた。加えて、「ほら見たことか、あの時言ったろう。」と文部科学省を責め立てる発言も当然出てきているが、「状況が変わったのだからしょうがあるまい」と言われればそれまでである。衆議院の附帯決議をつける形で原案が可決された。教特法の改正は修正が必要とした立憲民主党、日本共産党の修正案は否決された。次は参議院に送られるが、7月1日改正法施行は確実になってきた。また、同日研修等に関するガイドラインが出るのも間違いあるまい。
今回は審議の中で、私が気になった点をお話ししたい。
それは、現在休眠となっている免許に関してのことだ。この制度が始まる前に取得した教員免許(以下「旧免許」)は、有効期限などない。それを、更新制導入に伴って年齢に応じた10年に一回の受講義務を課したのであるからかなり強引な話だ。このあたり、
昨年7/14の初回コラムを見ていただきたい。
その結果、更新講習を確認期限までに受講しなかった方々の旧免許は有効性がなくなっている。ちなみに私も更新講習の講師はやっているが、確認期限の延長申請はしていないので免許の有効性に欠ける。このような免許を「休眠状態」と呼んでいる。これに似て異なるものは、「期限切れ状態」で、これは新免許に付される有効期限が切れてしまったもののことである。
なにゆえに、ここが気になったかというと、今までの流れとあまりに違う対応をすると文部科学省が言っているからなのである。現行法の運用では「休眠状態」の免許を有効にするのには、更新講習を受講して試験に合格し、居住地の都道府県教育委員会に修了確認することとなっている。これで晴れて免許が有効化される。ついては、教職に就ける。
改正法ではどうなっているかというと、経過措置として「この法律の施行の際現に効力を有する普通免許状及び特別免許状であって、第二条の規定による改正前の教育職員免許法第九条第一項及び第二項の規定により有効期間が定められたものについては、この法律の施行の日以後は、有効期間の定めがないものとする。」とだけある。つまり新免許で施行日(おそらく7月1日)に有効化されている新免許は、有効期限に関わる記載が消え、旧免許同様期限なしになるということである。そして、期限が切れてしまって無効になっている免許は、もう一度授与権者(都道府県教育委員会)に申請して免許を発行してもらうことになる。つまりこの経過措置は、期限切れになっているか否かの新免許に関してのことなのである。
いままで、この旧免許の休眠状態からの有効化、期限切れ新免許の申請再発行には、運用上免許状更新講習が必須であった。これは当然なことで、免許が有効で教職に就いている方が10年に一回の更新講習受講が必須なのであれば、就いていないのならば更新講習は業務に関わる内容なのでより免許を使って働くのであれば必要だからだ。
さて、では法改正後これら休眠免許、有効期限切れ免許の有効性の回復は、更新講習というものがなくなったらどうなるのか。私は、国会審議で文部科学省から答弁されたこの状況への対応が気になるのだ。
対応は以下の通りだ。
1.休眠免許 自動的に有効化される
2.期限切れ免許 なるべく負担少なく再度授与権者(都道府県教育委員会)再発行
これらに関しては、数人からの質問に対して、制度上の正面である、総合教育政策局の藤原局長が回答しただけであり、何ら議論にはならなかった。極めて残念である。この内容は、「教師の確保を妨げないこと」に絡むわけであるが(なにしろ教員免許を持ってはいるが教員になっていない現役世代の方は免許の発行数と教員数から考えるに200万人程度はいると思われる)、教員候補者を増やすためには免許所持者が多い方がそれはいいのだが、また社会人経験のある免許所持者はぜひ現場に来てもらいたいのであるが、何もなしで本当にいいのであろうか。ちなみにこの件は衆議員の附帯決議にも盛り込まれた。
教員の質向上と言いつつも、一方ではただの数字合わせに見えるような対応をしている気がしてならない。本質はいずこへである。確かにこれと同じような例(資格所持者の着任前再研修制度)は、看護職や保育士の職場復帰の時などにある。しかしこれは、再度現場へ戻る際に研修をするというものになっているのであって、現場の経験がない方のケースではない。資格をもって戻ること先にありきでうまくいくのであろうか。たしかに、現場は、社会人経験のある即戦力を求めているのである。そして、40代あたりの年齢の方を求めているのである。そして、それなりの力量も持っていてほしいのである。であれば、採用倍率など気にしないで初任を受け入れ、意欲ある社会人経験者を様々なルートで一本釣りしてしっかり研修していくのが現実的な気がする。
前回「教師の確保を妨げないこと」については、教師の魅力を伝えると共に、休眠中・期限切れ失効中の免許所持者への対応が、議論の核になるはずと書いたのであるが、議論にはならなかった。国会とはと改めて実感するとともに、それゆえに藤原局長があのような感じで会話になっているような、なっていないような答弁になるのも分かる気がする。
毎度毎度の繰り返しになるが、教師の確保のために、教師とは以下のような職業だということを大いにPRできるように環境を整え、実現したらどうか。
「教員の日常は大変かもしれないけど、まとまった休みがある。」
「それなりの給与が保証される。」
「なにしろ、やりがいは十分すぎるほどある。毎日が学びだ!」
こんな生き方をしたいという方は、壮年者も含めてそれなりの数がいそうな気がするのだが、皆さんいかがお考えになるだろうか。今回もまたまた宣言するが、私も自分の人生の最後のステージで今一度現場で活動してみたいと思っている口である。
上記に加えて、新卒者向けには、学生支援機構からの奨学金の返還にも配慮することを示してほしい。
現在、学生支援機構の仕組みでは、返還免除になるには、大学院(修士課程・専門職学位課程・博士(後期)課程)修了の優秀な成果を収めた人だけだ。ぜひ、かつての様に教員として未来創造に責任をもって携わる方にも免除を適用していくことが必要なのではないか。
次回は、参議院での審議も見ながら、マジックワードの様になっている「教員の働き方改革」と「多様性」について考えていきたい。
(スケジュール予測)
法案提出 2022年2月25日(最速6月改正法成立 7月施行)
現在、衆議院文部科学委員会にて審議完了 参議院文教科学委員会へ
2022年度受講対象者は、法令施行しだい制度適用見込み
研修新制度開始 2023年度