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2021/07/20

どうなる教員免許更新制 2 どんな改正が考えられるか

Tweet ThisSend to Facebook | by 星槎大学 事務局
2021年7月20日

 今回はまず、新聞報道を斜めに見るところから始めてみたい。
 7/6の定例記者会見で前日7/5実施の教員免許更新制小委員会の件に関する質問に、文科大臣が答えた。その映像も、回答のテキストも前回紹介しているので確認された方も多いかと思う。
 そしてその後の取材が、7/10に記事(毎日新聞)になったし、それを受けて取材した記者(共同通信等)もいる。

◆文部科学省は、教員免許に10年の有効期限を設け、更新の際に講習の受講を義務づける「教員免許更新制」を廃止する方針を固めた。政府関係者への取材で判明した。今夏にも廃止案を中央教育審議会に示し、来年の通常国会で廃止に必要な法改正を目指す。(7/10 毎日新聞)
◆文部科学省が、教員免許に10年の期限を設ける教員免許更新制を廃止する方向で検討していることが10日、関係者への取材で分かった。早ければ来年の通常国会での教育職員免許法改正案提出を目指すが、与党の一部に存続を求める意見があることから曲折も予想される。(7/10 共同通信)
◆政府は、幼稚園や小中高校などの教員免許を10年ごとに更新する教員免許更新制を廃止する方針を固めた。更新制は教員にとって手間がかかる割に、資質向上の効果が低いと判断した。免許を無期限とする代わりに、教育委員会による研修を充実・強化させる。文部科学省が8月中に中央教育審議会(文科相の諮問機関)に方針を示し、来年の通常国会に関連法改正案を提出する考えだ。(7/11 読売新聞)
◆教員免許に10年の期限を設け、更新前に講習を受けないと失効する「教員免許更新制」について、文部科学省が廃止する方向で検討していることが、政府関係者への取材で分かった。(7/12 朝日新聞)
◆東京新聞とサンケイ新聞などは、共同通信配信の記事を転載

 どうやら、意図されたリークであることは、その後の大学からの記事に関する問い合わせ(7/11)の文科省の素早い以下の回答を見ると明らかだ。(7/12)

◆教員免許更新制については現在中央教育審議会にて抜本的な検討を進めているところであり、現時ではまだ方向性を打ち出すには至っておりません。
文部科学省としましては、中央教育審議会での議論を踏まえ、制度の見直しに関する検討を速やかに着手してまいりますが、現現段階で教員免許更新制の廃止を固めたという事実はありません。

 よくあることではあるが、「嘘」を言ってはいけませんと言いたいところだ。だれが嘘を言っているのかと問いたくもなる。それも2回もだ。
 しかしながら、この辺り言葉というのは面白いもので、「廃止する方針を固めた」「廃止する方向で検討している」は「廃止を固めた」とイコールではない。つまり、どんな結論になろうとも「嘘はいってない」という実に見事な日本語だ。新聞も嘘は言っていない、文科省も嘘は言っていない。感心する。

 7/13の大臣の定例会見では、当然質問が出た。これも予定通りだろう。7/10の記事を取材した幹事社の毎日新聞大久保氏は進行係なので、もう一人取材で情報を得たであろう共同通信の記者が質問した。
「更新制廃止が固まったと報道されたが、大臣のお考えは?」
 大臣の回答主旨「報道は承知しているが、文科省が更新講習の廃止を固めたという事実はない。研修は重要であり、その点も含めて中教審にご議論をお願いしている。私の結論的思いを申し上げるのは控えたいし、答申を待って方向性を決めたい。」

 質問した記者は言いたかったに違いない。
 「大臣は、廃止する腹積もりだ。法改正は通常国会って考えてるよ」っておたくの部下言ったよね。
 記事にしてくれてありがとう。それをリークというのです。さて、意図はどこでしょうか。大臣は更新講習廃止を本気で考えているというアピールか。教育を語らない政治家はアウトですから。選挙も10月にはありますので。そういえば、大臣も副大臣も、大臣政務官もみんな衆議院議員ですね。

 ただし、これら報道の中で事実誤認もある。こちらからすれば、しっかり学んで記事を書きなさいということだ。今回指摘させていただくのは朝日新聞の記事だ。

◆更新制は「不適格教員の排除」を目的に自民党などが導入を求め、「教員の資質確保」に目的を変えて09年度に始まった。無期限だった幼稚園や小中高校などの教員免許に10年の期限を設け、期限が切れる前の2年間で計30時間以上、大学などでの講習を受けなければ失効するしくみだ。
 ただ、夏休みなどに自費で受ける講習は多忙化する教員に不評で、文科省が今月5日に公表した調査では、約6割が講習に不満を抱いていた。(7/12 朝日新聞)

 下線を二つ付けたが、前回のコラムでも指摘したことであるが、一つ目の下線のようなことを書いたら当時の中教審教員養成部会のメンバーは、かなりのご立腹だと思います(そのメンバーを存じ上げていますので絵が浮かびます)。まるで、中教審が自民党の言いなりのような書き方だ。二つ目の下線の事項はおそらく、7/5資料の総合的な考察の以下の部分か、「主なポイント」を読んで書いたのであろう。
 「受講した更新講習の受講直後の内容面に限った満足度は、「満足」と「やや満足」の合計が過半を占めており、「不満」および「やや不満」はそれぞれ8.1%、8.0%と低く、半数以上が内容的に満足しているといえる。しかしながら、時間負担や費用負担等を踏まえた総合満足度については、「満足」と「やや満足」の合計が19.1%にとどまる一方で、「不満」が39.0%、「やや不満」も19.5%と、ネガティブな回答の合計が58.5%と過半を占めていた。」
 間違ってはいないかもしれないが、ミスリードしそうな書きぶりではある。想像するに、自宅から離れた受講会場に、5日間も通うのはいくら内容がよかったといってもその部分は不満傾向になると思う。この調査結果から推測するに、コロナ前よりもコロナ後の方が総合的な「満足」の割合が高いという結果になっているというのは(3.4%→5.5%)、オンライン講習で移動のコストが抑えられたのが理由だと考えることができる。もしかしたら、この記者は結果概要の「調査結果の主なポイント」しか見ていないのかもしれない。

 メディアの報道も微妙なもので、取りようによっては教員バッシングを誘発しかねない。「やっぱり教員は甘い」というムードをひたひたと醸造させていくのだ。もうそれはやめた方がいい。学校のような社会的共通資本は未来を創っていくのに非常に重要な装置だ。そしてその中でたとえブラックといわれながら多くの先生たちは日夜頑張っているのだ。力を合わせてみんなで応援しなければならない。

 今、教員のなり手が少なくなっている。とてつもない現在の社会課題だ。
 なにしろ、教員の採用選考試験の競争率は顕著に減少しており、平成12年度に13.3 倍と過去最高を記録した公立学校の倍率は、平成30年の4.9 倍まで年々低下が続いているのだ。
 6/25の朝日新聞では「教員志望者の減少に歯止めがかからない。背景には、かねて指摘されてきた厳しい労働環境がある。SNSには過酷な現状を訴える声があふれ、夏の採用試験を前にした受験生にも不安が広がる。教育委員会側は試験の免除などハードルを下げてまで、先生のなり手確保に躍起になっている。」という記事がある。新聞が教育を支えていくのは、スポーツのスポンサーシップだけではない。


 さて、それではいよいよ今回の本題だ。
 どんな改正が考えられるのであろうか。なにしろ大目的は以下の3項目だ。
 A: 教師の資質能力の確保
 B: 教師や管理職等の負担の軽減
 C: 教師の確保を妨げないこと
 更新講習制度を無くすことも選択肢の一つだが、ものには順序というものがあろう。それでは、いくつかの項目に分けて、A~Cがかなうかどうか〇(かなう)、△(どちらともいえない)、×(むずかしい)、で考えてみよう。

1.講習内容はどうなるのか
 今までの議論の中で確実なのは、現状の更新講習の内容でも悪くはないということになる。特に必修領域で最新の教育事情として扱われている部分や、選択必修領域で扱われている不登校等現在の教育課題にあたる部分は必要だという意見も多く、意味があると答えている中教審委員からの意見もある。
 現行制度で言うと、総時間30時間中3/5を占める選択講習が、希望したものが満員となり受講できない、地理的に遠隔で受講できない、受講しないわけにはいかないのでやむなく選択した、などとなっているのが課題のようだ。
 となると、必修領域を中心として講習全体を見直すことが進むと考えられる。
 〇 A: 教師の資質能力の確保
 △ B: 教師や管理職等の負担の軽減
 △ C: 教師の確保を妨げないこと

2.講習時間はどうなるのか
 おおむね1日6時間、5日間で30時間という講習は、10年に一度とはいえなかなかの負担となる。それも受講場所はさほどアクセスがいいとは限らない。
 となると、オンラインを活用することが求められてくる。しかしながら、5日間自宅で机に向かってオンライン講習受講というのも負担だ。オンデマンドであれば、見たい時に見ればいいではないかという意見もあるが、30時間一方通行の講義というのもなかなか大変である。
 では、講習時間を減らすことができるかというとそれもなかなか実現しまい。なにしろ、大学の1単位は45時間の内容なのであるから減らすことは難しいと考える。
 となると、現行制度をうまく使って、星槎大学1day講習のような仕組みはどうであろうか。
 〇 A: 教師の資質能力の確保
 △ B: 教師や管理職等の負担の軽減
 〇 C: 教師の確保を妨げないこと

3.受講期間ははてさてどうするのか
 考えてみれば、30時間は1年に3時間ずつなら10年で満たす。つまりは受講期間が10年間あれば、平均して、1年に3時間、つまり半日受講すればいいことになる。例えば、1時間1ポイントにして10年間の間に、30時間に相当するポイントを集めればいいのである。
 おそらくこれは、実に有効になってくる。1時間1ポイントなら30ポイントであるが、更新期間を5年にして5年間で15ポイントにするのも可能だ。3年間で10ポイントでもいいかもしれない。このあたりを柔軟にすれば教育委員会の講習もポイント換算できるし、何しろ全データをつなげば更新のうっかり忘れなどなくなるはずだ。
 〇 A: 教師の資質能力の確保
 〇 B: 教師や管理職等の負担の軽減
 △ C: 教師の確保を妨げないこと

4.対象者はどう考えていくのか
 現在受講対象者は、講習を受講できる者として、教育職員免許法と免許状更新講習規則でかなり細かく定めている。現行法上では、教員免許を持っていても受講できない者がいるのである。
 教師の確保、それも社会人経験を積んだ人材として、それなりの免許保持者を確保し、現場で活躍してもらうには間違いなく講習が必要となる。そのために、教員免許を持っている方すべてを受講対象者とすべきだと思う。
 マイナンバーカード同様、講習情報も入れることができる教員ライセンスにすることになれば、更新講習のみならず人材確保にも寄与できると考える。何しろ学校現場では人材が必要なのである。しかしながら、ただいればいいというわけではない。
 現在更新講習を受講することができない、いわゆるペーパー免許の方も受講できるようにすればいい。何しろ、教員免許を取得して卒業する大学4年生は、そう増えはしないのである。すでに免許をもって社会人経験を持つ人材を教育現場に迎えるのである。その際に、5日も好きに休めるわけはない。
 〇 A: 教師の資質能力の確保
 〇 B: 教師や管理職等の負担の軽減
 〇 C: 教師の確保を妨げないこと

5.講習会場
 これは、自宅での受講を基本にするべきだと提案する。
 今の技術であれば、オンラインによるグループワークも可能である。そして何より、GIGAスクール構想のある意味モデルにもなる講習になる。足りない部分は、自宅での環境整備かもしれないが、勤務校のある方は、勤務校を活用するのもいいかもしれない。
 今回の調査で、すべてオンラインで受講した層の総合満足度は低いという結果があるが、オンラインでインタラクティブな授業になっていたのであるかどうかは明らかではない。おそらくオンデマンドの一方通行だったのではないかと想像する。
 〇 A: 教師の資質能力の確保
 〇 B: 教師や管理職等の負担の軽減
 △ C: 教師の確保を妨げないこと

6.講習方法
 オンライン講習を進めるべきだと考える。講習のオンライン化の促進は、前述の講習会場の課題をクリアするだけでなく、新たな学びの方法を提案することになる。
 また、それは、今までの学びの見直しにもつながり、より充実した学習活動・教育活動の展開につながるはずだ。
 〇 A: 教師の資質能力の確保
 〇 B: 教師や管理職等の負担の軽減
 〇 C: 教師の確保を妨げないこと

7.基本的仕組み・制度
 申送りにもあった、「教壇に立っていない方と現職が一律に一緒な講習とすることは矛盾が大きい」という意見であるが、講習数が十分あり、その講習の内容が明らかで、受講生が自分自身に必要な講習であれば全く問題ないと考える。
 学修履歴も管理するし、今まで見てきたような取り組みを進めれば新たな時代に適応するクリエイティブな教育環境ができるのではないだろうか。
 〇 A: 教師の資質能力の確保
 〇 B: 教師や管理職等の負担の軽減
 〇 C: 教師の確保を妨げないこと

8.それよりなにより、ほんとに廃止になるのか
 私の経験からいうと、なくす必要はないと考える。Society5.0のなかGIGAスクールの本質から言って、すべての情報を共有して有効活用するのは当然の流れだ。期限付き免許になって10年経過している以上更新は必要であるし、学校教育を支えている教員には研修が必要だ。そこをうまく活用していけばいい。社会人経験を積んだ教員も必要だ。これらは、今回見てきたとおりだ。


 さて、今回は更新講習廃止報道から始まって、今後の更新講習の在り方まで議論してきた。誠に勝手気ままな議論なので、実際のところどうなるかはわからないのであるが、今までの自分の経験を活かすべく真面目に取り組んでみたので面白がってお付き合い願えるとありがたい。
 そういえば、10年ほど前になるが、退勤後の先生たちを想定して平日夜間の更新講習を実施したことがあった。スタッフ全員で、受講生が来る前に、休憩時間にみんなで食べる夜食のおにぎりを準備したのを思い出す。部活指導帰りはおなかがすいてるもの、ちょっとでも口に入れてといううちの創設者のはからいだった。ちょうど、民主党政権になるときで、いらした受講生である先生方は、何でやんなきゃならないんだという不満満々であった。せめてもという思いの一品だった。
 そんなとき、とある受講生が講習中「試験には何がでるのですか。教えてください。お金払って落ちるわけにはいかないので」というようなことを講師に言った。すかさず、講義を受けていた年長の受講生教員が「おい、教員としての誇りを持とうぜ。気持ちはわかるが、おれたち生徒にそう言われたらどうするんだい。」
 私も現場で15年ほど、なかなか手のかかるこども達と過ごしてきたので、いいたかったセリフを年長の受講生に言ってもらって安心した。思うことと、いうことは全く違いますので。このあたりなかなか、開設者からは言えないもんです。
 実は今回のこの状況、この時に似ているなと感じています。
 間違いなく言えることは、あの時と同じで待っていてもなにもいいことがないということかなと思います。何しろ法改正は、早くて来年1月からの通常国会ですので。
 コマーシャルのようになって恐縮ですが、星槎大学の1day講習、今回の調査に見事に対応していると自画自賛しています。まだまだ申し込みは可能ですので、情勢が明らかになって申し込みが殺到する時期の前にどうぞ。なにしろ、受講期間は2年間で、これからはコロナで延期なさった方もいますので、早めに学んでいただくのがいいかなと思っています。会場はご自宅、今なら日程は選べます。

 次回は、小委員会も第4回を迎えているので、どんな具合になっているか見ていきましょう。


(スケジュール予測)
更新講習に関する答申 最速 2021年9月
省内調整・法案準備
法案提出 2022年1月(最速5月改正法成立)
周知移行期間 最低1年
2022年度受講対象者は現制度適用
新制度開始 2023年度
2023年度は新制度への移行期間で旧制度との併用
更新講習改正法の改正内容は  ①講習内容 ②講習時間 ③対象者 ④受講期間など詳細は省令か?

(著者紹介)
松本 幸広(まつもと ゆきひろ)
 埼玉県秩父郡長瀞町出身のチチビアン。学生時代宮澤保夫が創設した「ツルセミ」に参加。大学卒業後宮澤学園(現星槎学園)において発達に課題のあるこども達を含めた環境でインクルーシブな教育実践を行う。その後、山口薫とともに星槎大学の創設に従事し、いわゆるグレーゾーンのこども達の指導にあたる人たちの養成を行う。星槎大学においては、各種教員免許の設置をおこない、星槎大学大学院の開設も行う。「日本の先生を応援する」というコンセプトで制度開始時から更新講習に取り組んでいる。新たな取り組みである、「1day講習」の講師も務める。


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