トップページに戻る

 

 


 

2022/01/17

どうなる教員免許更新制 リターンズ5

Tweet ThisSend to Facebook | by 星槎大学 事務局
2022年1月17日

 2022年1月14日 7時30分、朝日新聞DIGITALに「教員免許更新制、7月に廃止へ 政府が法改正方針」という見出しの記事がアップロードされた。改正法案内に廃止の日付を明記するのだそうだ。大臣は、成立後できるだけ早く施行するといっているので、この記事には施行日を7月1日にする方針と書かれている。報じているのは朝日だけなので、記者は取材に頑張ったのであろう。通常国会前の自由民主党文部科学部会もしっかりウォッチしたようだ。前回は毎日にやられましたので。今大臣会見幹事社はテレビ朝日ですしね。しかしながら、文部科学行政に関する記事は早ければいいものではないし、当事者である現場の教員は冷静に見ている。おそらく、多少慌てているのは、我々のように更新講習を実施する側かもしれない。これに追随して報じたのは、産経新聞が同日Web版で17:41となっている。実際の文部科学省の自民党文科部会への説明は、1/14 13:00~14:00だったはずなので、朝日は頑張って早めに当日資料を手に入れたのであろう。
 今年になってからは東洋経済ONLINE が、教員免許更新制小委員会委員、独立行政法人教職員支援機構理事長荒瀬氏インタビューを掲載している。2022年1月7日だ。
 https://toyokeizai.net/articles/-/478609
 その中で、以下の内容が気になった。まさに「THE 昭和」という印象だ。

 「免許更新制がなくなることで、教員の質をどう担保するのか」という声には、荒瀬氏自身の経験を交えながらこう答える。「もともと教員は、勉強が好きなのです。そうでなければ教員にはならないでしょう。そもそも研修は、更新時の講習だけではありません。私は典型的な『でもしか先生』でしたが、それでもいざ先生になると勉強をしました。生徒たちを目の前にして、自分の使命とは何か、考えざるをえないのです。当時は研修がありませんでしたが、同僚の先生と議論したり、一緒に勉強したりしていました。環境を整えることで教員も学ぶ意欲が湧いてくる。それが結果的に、質の高い子どもの教育につながってくるのです」

 おそらく記事を書いた側が、人間にとっての学びや、学びの方法などの本質の理解が浅いせいか、かなり薄っぺらな感じになっている。しかし、責任ある立場の方が、学びに関して語るのであれば、もう少し何とかならなかったのであろうか。

 人は社会的生物である。それゆえに、関係性の中で学習もしていくし発達もしていく。その中で、近代というのは本来あるべき社会性の中から個を分断していく方向で進展してきたのかもしれない。そして、それが近代の学校システムの宿命だったのかもしれない。この辺りが、大きな課題のような気がするのである。この辺りの考察こそAIと共に生きる未来を描くことになるのではなかろうか。「もともと教員は勉強が好きだった」では「ムムム・・・」とならざるを得ない。

 閑話休題。
 現在星槎大学では、多くの教職員組合等の組織と連携しながら活動を進めている。基本コンセプトは「日本の先生を応援する」ということだ。それはとりもなおさず、こども達を応援することにつながるからだ。この活動を星槎は社会でずっと続けてきた。
 免許更新制度スタート当初から、この思いで組合の方々とも付き合ってきたが、そのきっかけは、私の昔の職場の同僚でその時とある組合の書記長をしていたO氏との関りであった。
 当初、組合系は当時更新講習制度には大反対で、そのような組織と更新講習の連携をするなど、私は初め思いもよらなかった。たしかに、組合としては組合員のためにという考えが基本であるので、反対しているとはいえ制度が始まった以上何らかの支援をしたい。そうはいっても、制度上更新講習の開設者にはなかなかなれない。であれば、大学と連携することで必要な講習を開催し、受講機会を確保することは法が施行された以上必要なことだ。ある意味、教職大学院制度がはじまり、教員というのは高度専門職だということが制度的にも確立されたタイミングでもあり、専門職の自律が求められていたことも背景にあったのかもしれない。
 開設者である我々も、教員を応援することが基本コンセプトだ。この連携は、考えてみれば自然な流れであった。その結果、少しでも役に立てればということで、連携事業としての更新講習が始まった。このことは、教員の居住地近くでの受講をかなえるとともに、いわゆる職能団体としての教職員組合を確立していく基礎となっていくのではないかと我々は考えている。現在全国で40を超える組織と我々は連携しているが、今後展開されるであろう新制度研修の中どのように進めていくことができるか楽しみでもあるし、教職員組合が職能団体として、専門職としての自律を成し遂げてほしいと願うばかりである。

 さて、前回触れた、令和4年度の免許状更新講習の開設についてであるが、以下のように示され、我々は熟慮の結果、1回目の申請を見送った。

 次期通常国会で法改正が認められた場合、時間を置かずに速やかに施行する方向で検討・調整しており、仮にこうした内容を盛り込んだ法改正が実現した場合、令和4年度の途中で教員免許更新制が発展的解消される可能性がございます。その場合、法律が施行された以降に免許状の修了確認期限又は有効期間の満了の日を迎える者は、免許状更新講習の受講や免許の更新手続の必要がなくなります。
 令和4年度における免許状更新講習の開設については、これらの見込み等を考慮した上で、ご判断いただきますようお願いします。

 しかしながら、多くのみなさんの声をいただき、本年1月14日の第二回申請に、1day講習に関わる申請をして、本制度当初からのメンバーとして、最後まで皆さんの応援をしようと計画した。という申請締め切り当日の朝日の記事だったのである。
 第一回目の申請時には、文科省は実施に関する調査もしたが、その調査結果は何ら公表されていない。まさに我々のように更新講習を実施する側は多少慌てているのだ。
 ということで、ここでは我々が申請した講習プログラムを公開する。なお、認可は2月15日頃になるので、あくまで認可申請中の内容である。
 2022年度講習では「必修」「選択必修」「選択」という領域はなくなる。これは、省令改正だけで国会審議ではないので、申請時点で「必修」「選択必修」ではなく、すべて「選択」にせよと文部科学省が言っているので確定である。我々は、30時間の講習を「講習Ⅰ(10時間)」「講習Ⅱ(10時間)」「講習Ⅲ(10時間)」で構成することにした。
 また、その方法は1day講習の枠組みを使うことにした。つまり、基本自己学習で、30時間分を1日の講習と試験で完了する方法である。講習内容は、この際見直し、テキストにはあらたに「コラム」を加筆した。この分量でいけば、1day講習の講習部分がなくとも試験だけで大丈夫なように仕組んでみた。とりあえずは、1day講習スタイルでまずは進めて、皆さんの声を聴きながら完全通信教育も必要であれば展開していく予定にしている。担当講師の西永教授と私としては、短い時間でも直接話しかける時間を持った方が、より深みのある、試験も安心の内容になるのではないかと考えている。

 講習内容は以下の通りである。
講習Ⅰ(10時間)
教育の最新事情
国の教育政策や、社会の変化と未来の教育などの話題を中心としながら、世界の教育事情の基本的な知識の確認とともに、実践的な理解を深めることを目的とする。国の教育政策については、学習指導要領の改訂を踏まえ、主体的・対話的で深い学びを中心に、それが取り上げられた理由や意味合いについても取り上げる。また、世界の教育事情では、諸外国の教育について触れるとともに、SDGsや仁川宣言についても取り上げる。学校に関わるすべての教員が基礎基本として習得することが望ましいと考えられる内容で構成している。
講習Ⅱ(10時間)
子どもの変化・発達と脳科学、GIGAスクール
子どもの変化に応じた適切な対応のために、社会の変化とその具体的な表出としてのこどもの貧困問題・性同一性の課題・外国にルーツを持つ児童生徒の課題などを明らかにするとともに、発達に関わる知見を脳科学の視点から取り扱う。その上で、発達障害の概念を理解するとともに、多様性の概念についても考察する。講習の最後には、さまざまな児童生徒に応じた個別対応が可能になる可能性を持つ、GIGAスクール構想について取り上げる。学校に関わるすべての教員が今後標準技能として習得することが望ましいと考えられる内容で構成している。
講習Ⅲ(10時間)
不登校とインクルーシブ教育
大きな教育課題である不登校について取り上げるとともに、その解決策として有効と考えられるインクルーシブ教育について学ぶ。不登校は、個々の児童生徒の発達と現在の学校制度に大きくかかわることを明らかにし、児童生徒に学校が適応していくという観点で教育課程特例校についても取り上げる。そのうえで、インクルーシブ教育について学び、この教育は、障害のあるなし関わるものではなく、一人ひとりのニーズに応じた教育を目指すもので、児童生徒が置かれた様々な困難にも対応していくものであることを理解する。学校に関わるすべての教員が受講することが望ましいと考えられる内容で構成している。

 現在のスケジュールでいくと、講習申込は3月16日からの予定である。今日から始まる通常国会の中で、この先の研修をどのようにするのか、発展的な展開を望んでいる。くれぐれも、目先の「いかにも実践的」とみえる、ノウハウ中心の研修が支配的にならないことを期待している。
 個人的には、このコラムで今までも述べてきたことだが、あまりがっちりした管理の方向に進むのは教育という場ではいかがかという意見だ。極端な言い方になるが、多様性を認めていくという方向に反することになる可能性がある。もっと、人間を、教員を信じていける寛容な社会となるよう願っている。

 今回も、忘れないようにここにも書きますが、更新制度見直しの目的は「教師の資質能力の確保」「教師や管理職等の負担の軽減」「教師の確保を妨げないこと」ですから。手段が目的化しないことを祈っている。せっかくの機会なので、この際あれもこれもやっておけというのはやめた方がいい。

 毎度毎度の繰り返しになるが、教師の確保のために、教師とは以下のような職業だということを大いにPRできるように環境を整え、実現したらどうか。
 「教員の日常は大変かもしれないけど、まとまった休みがある。」
 「それなりの給与が保証される。」
 「なにしろ、やりがいは十分すぎるほどある。毎日が学びだ!」
 こんな生き方をしたいという方は、壮年者も含めてそれなりの数がいそうな気がするのだが、皆さんいかがお考えになるだろうか。今回も宣言するが、私も自分の人生の最後のステージで今一度現場で活動してみたいと思っている口である。
 上記に加えて、新卒者向けには、学生支援機構からの奨学金の返還にも配慮することを示してほしい。
 現在、学生支援機構の仕組みでは、返還免除になるには、大学院(修士課程・専門職学位課程・博士(後期)課程)修了の優秀な成果を収めた人だけだ。ぜひ、かつての様に教員として未来創造に責任をもって携わる方にも免除を適用していくことが必要なのではないか。

(スケジュール予測)
免許状更新講習規則改正 領域問わない30時間
教育職員免許法改正 省内調整・法案準備
法案提出 2022年1月(最速5月改正法成立)
2022年度受講対象者は、法令施行しだい制度適用見込み
新制度開始 2023年度

(著者紹介)
松本 幸広(まつもと ゆきひろ)
 埼玉県秩父郡長瀞町出身のチチビアン。学生時代宮澤保夫が創設した「ツルセミ」に参加。大学卒業後宮澤学園(現星槎学園)において発達に課題のあるこども達を含めた環境でインクルーシブな教育実践を行う。その後、山口薫とともに星槎大学の創設に従事し、いわゆるグレーゾーンのこども達の指導にあたる人たちの養成を行う。星槎大学においては、各種教員免許課程の設置をおこない、星槎大学大学院の開設も行う。「日本の先生を応援する」というコンセプトで制度開始時から更新講習に取り組んでいる。新たな取り組みである、「1day講習」の講師も務める。

10:03 | 投票する | 投票数(0) | コメント(0)