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2022/05/03

どうなる教員免許更新制 リターンズ12

Tweet ThisSend to Facebook | by 星槎大学 事務局
2022年5月3日

 4月28日の参議院での国会審議を見る限り、具体的議論の焦点は教育公務員特例法(以下「教特法」)の改正の是非になりそうである。期待した休眠状態の免許や有効期限切れの免許所持者の教育現場への誘導に関しての議論には残念ながら至らなそうである。

 中央教育審議会で当初あげられた議論の目的は「教師の資質能力の確保」「教師や管理職等の負担の軽減」「教師の確保を妨げないこと」であった。なぜかというと「令和の日本型学校教育」を実現するためである。教特法と教育職員免許法の改正はその手段だ。
 この部分に関する中教審への大臣諮問は以下の通り、「教員免許更新制については,教師が多忙な中で,経済的・物理的な負担感が生じているとの声や,臨時的任用教員等の人材確保に影響を与えているという声があることなども踏まえ,前期の中央教育審議会において教員免許更新制や研修をめぐる制度に関して包括的な検証を進めていただいたところです。現場の教師の意見などを把握しつつ,今後,できるだけ早急に当該検証を完了し,必要な教師数の確保とその資質能力の確保が両立できるような抜本的な見直しの方向について先行して結論を得ていただきたいと思います。」 ということで、更新制についてはなくすことで、現在先行した議論の決着はほぼついている。検証については私自身の肌感覚として、はなはだ疑問であるが、状況的にやむなしとして飲み込むことにする。
 それでは、更新講習制度をなくすことで学校教育はどうなるのか。
 令和の学校教育を支える、より学んでほしい教員が逆に学ばなくなるのではという心配が、ある意味教特法の改正だ。そして、ここが現在の議論の焦点になっている。この点この国の教育制度の重要なポイントでもあるので、ぐっと掘り下げた議論を期待したい。

 昭和と令和に挟まれた平成の30年間(1989~2019)に世界の状況が大きく変わったのは事実である。東西冷戦が終わり、世紀末を迎え、21世紀に向けた様々な提言がなされ、インターネットが世界を繋いだ。世界中の人々が手元にスマフォを持ち、24時間発信でき繋がる環境ができた。ローマクラブ(1970)で指摘された地球における人類の課題もいよいよ待ったなしになったと認識されSDGsを共有した。
 教育の重要性は「社会化」のためだけでなく、創造性であるという認識も拡がってきた。しかし、逆に若者の「社会化」ができていないではないかという社会の指摘もあがり、その原因を学校教育に求める声がごく当然のこととなってきた。「学校の先生は社会を知らないから」などという言葉もその要因としてもう長いこといわれ定着してきた感じだ。教員バッシングが当然の雰囲気になったのも「平成」だったと感じる。
 保護者の世代の大学進学率は50%を越え、会社ではICT活用がごく普通に行われている。「学校はまだ昭和なのか」と嫌味を言われつつも、数々の学校での情報化教育施策の蒔き直しのためか文部科学省の「GIGAスクール」構想はコロナと経産省の強烈な追い風を受け、いつになく進んでいる。教員の学歴で保護者を説得できる要素は薄くなり、コンプライアンスという言葉で世の中が理屈で動くのではないかという幻想が拡がり、テレビのニュースはワイドショーとの区別があいまいになってきて、政治は劇場型の要素がないと支持を集めることができなくなってきた。いよいよ近代の限界かもしれない。
 これら状況認識から、私は教特法改正反対である。管理してやらせるのではなく、主体的に取り組む背中をこども達に見せることを期待している。教育委員会や学校管理職も、学校のフラットな組織のよさを活かすため、学ぶ姿をみんなに見せてほしい。法律を改正しないと、学習に取り掛かれないなどとは思いたくないし、思わないからだ。しかし、衆議院でも参議院でも、大学教員の意見に違和感を抱きつつも、次の点は即刻解決すべきだと考えている。
 それは、学校現場の体制整備である。昨年夏の学校教育法施行規則の改定で、学校の職員の種類が増えた。これは悪いことではないのであるが、チーム学校というコンセプトで分業を進める前に、正規の教員を増やすべきだと考えている。分業することで、イリイチの言うように、こども達が見えなくなる可能性があるからだ。
 今回の国会審議で出てきたキーワードの一つは「教員の働き方改革」だ。確かに、この要因は教員確保の阻害要因として大きい。そして、TALISなどの統計調査からも日本の先生の状況は異常ともいえる。そりゃあ教員希望者は減るわけである。教員の自己肯定感が低ければ(いくら謙虚な自己評価であっても)子供の自己肯定感も低いわけだ。負のスパイラルが見え隠れする職業になかなか人は集まらない。
 注意しなければいけないのはこの辺りの議論だ。今、どんな職業でも「働き方改革」という言葉を使うとその課題解決の正解のような雰囲気がある。世の中で会社に課題があると、単純にそこが諸悪の根源となっていると思われている。でも、もう少し考えた方がいい。個人的には、こと教育の現場では、1日の労働時間の圧縮では何にも解決しないと思っている。それでは、心ある教員のストレスを増幅させるだけだと感じる。教員の働き方は、年間を通じて考えることが必要だ。少なくとも、一人ひとり異なる唯一無二のこども達と家庭を相手にしているのであるから。
 保護者と連絡を取ることができるのは、夜しかないというのは明らかではないか。21世紀出生児縦断調査では、母が有職の割合は令和2年実施の第10回調査(小学4年生)では77.0%であり増加傾向にある。そこで、働き方改革だから早く帰れと管理職が言えるであろうか。だったら、できる限りTTにしてペアで業務を補い合う体制に近づけた方がいい。おそらく、教師のいわゆる問題行動も0にむかうはずだ。
 教師の働き方は、サラリーマンタイプではなくて、天気と季節に左右される農家の働き方に似ていると思う。つまり、近代合理主義のなか、一定基準で合理的に考えるのが唯一の正解だと考えることはもうやめた方がいい。人間そう単純なものではない。複雑だというより、理屈どおりになるものではないということ。刻一刻の状況の変化で同じものなどないのは当たり前の話。二元論はわかりやすいがそろそろ終わりにした方がいい。

 なにしろ、こども達の前に立ち、未来を創っていくために人の営みを伝えて新たな世界を創造していくことは、持続性から言っても間違いなく必要なことだ。過去に感謝して、未来に責任を持つためにも、学習を提供し学習者の学修を支える教育というものは最重要課題だ。

 毎度毎度の繰り返しになるが、教師の確保のために、教師とは以下のような職業だということを大いにPRできるように環境を整え、実現したらどうか。
 「教員の日常は大変かもしれないけど、まとまった休みがある。(ぜひ実現してほしい)」
 「それなりの給与が保証される。」
 「なにしろ、やりがいは十分すぎるほどある。毎日が学びだ!」
 こんな生き方をしたいという方は、壮年者も含めてそれなりの数がいそうな気がするのだが、皆さんいかがお考えになるだろうか。今回もまたまた宣言するが、私も自分の人生の最後のステージで今一度現場で活動してみたいと思っている口である。
 上記に加えて、新卒者向けには、学生支援機構からの奨学金の返還にも配慮することを示してほしい。
 現在、学生支援機構の仕組みでは、返還免除になるには、大学院(修士課程・専門職学位課程・博士(後期)課程)修了の優秀な成果を収めた人だけだ。ぜひ、かつての様に教員として未来創造に責任をもって携わる方にも免除を適用していくことが必要なのではないか。

◆国会審議も間もなく終わりになるでしょう。毎回多くの方に読んでいただきありがとうございます。遅ればせながら、感想などぜひ、メールで送信いただければありがたいです。 (松本) 
y_matsumoto@seisa.ac.jp

(スケジュール予測)
法案提出 2022年2月25日(最速6月改正法成立 7月施行)
現在、衆議院文部科学委員会にて審議が完了し、参議院文教科学委員会審議中
2022年度受講対象者は、法令施行しだい制度適用見込み
研修新制度開始 2023年度

(著者紹介)
松本 幸広(まつもと ゆきひろ)
 埼玉県秩父郡長瀞町出身のチチビアン。学生時代宮澤保夫が創設した「ツルセミ」に参加。大学卒業後宮澤学園(現星槎学園)において発達に課題のあるこども達を含めた環境でインクルーシブな教育実践を行う。その後、山口薫とともに星槎大学の創設に従事し、いわゆるグレーゾーンのこども達の指導にあたる人たちの養成を行う。星槎大学においては、各種教員免許課程の設置をおこない、星槎大学大学院の開設も行う。「日本の先生を応援する」というコンセプトで制度開始時から更新講習に取り組んでいる。新たな取り組みである、「1day講習」の講師も務める。

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