3月24日、「教育公務員特例法及び教育職員免許法の一部を改正する法律案」に関して、国会での議論が始まった。末松文部科学大臣が改正法に関する趣旨説明を行ったが、この改正は「校長および教員の資質の向上のための施策をより合理的かつ効果的に実施するため、公立の小学校等の校長および教員の任命権者等による研修等に関する記録の作成、ならびに資質の向上に関する指導および助言等に関する規定を整備し、普通免許状および特別免許状の更新制を発展的に解消する等の措置を講ずるものである」と説明した。
そして、以下の3項目を改正案の概要として述べた。
(国会での様子は以下のページでご覧いただけます。趣旨説明は35分あたり、質疑は39分あたりから。)
1.公立学校の校長および教員の任命権者は、校長および教員ごとに研修の記録を作成しなければならない。同時に、指導助言者は、校長および教員に対し、質の向上に関する指導助言を行う。こうした指導助言を行う場合、校長および教員の資質の向上に関する指標や教員研修計画を踏まえるとともに、研修記録の情報を活用する
2.普通免許状および特別免許状を有効期間の定めのないものとし、更新制に関する規定を教育職員免許法から削除する。合わせて、本法律案の施行の際に、現に効力を有し、本法律案による改正前の規定により、有効期間が定められた普通免許状および特別免許状には、本法律案の施行日以後は、有効期間の定めがないものとするなどの経過措置を講じる
3.普通免許状を有する者が、他の学校種の普通免許状の授与を受けようとする場合に必要な最低在職年数について、当該年数に含めることができる勤務経験の対象を拡大するとともに、主として社会人を対象とする教職特別課程について、その終了年限を1年以上に弾力化する
大臣は、改正法案に書いてあることを、丁寧に述べたことになる。前回も少し触れたが、教育委員会の責務は大きい。また、指導助言者は大丈夫であろうか。改正法での指導助言者とはつまりは教育委員会だ。そして、具体的研修はどうなるのか。法案には、任免権者が記録に記載する内容は、教育委員会での研修による学修、大学院での学修、認定講習等での学修、任命権者が必要と認めた学修、とある。また、教育委員会での研修では、指導助言者は、教職員支援機構や認定講習等を開設する大学に協力を要請することが想定されている。
はたして、この研修システムはうまく回るのであろうか。そして、本当にこれで、「教師の資質能力の確保」「教師や管理職等の負担の軽減」「教師の確保を妨げないこと」の本来目的は達成できるのであろうか。
さて、教員の具体的な学びはどうなるであろうか。
教育委員会での研修による学びは、教職員支援機構や認定講習等を開設する大学とどう連携していくかということになるであろう。しかし、これには地域差も課題となってくるのではないか。そして、物理的距離を越えていくのは、オンラインになるのであろうが、実際どう運営できていくかはそれぞれの自治体の教育委員会の力量なのかもしれない。地域の教育に、地域の自治体の教育委員会が責任をもって関わることは素晴らしいことではある。
大学院での研修による学びは、各都道府県に存在する教職大学院が中心となる。加えて、現職の教員の学びを支えるわけなので、通信制大学院も有効であろう。専門職の学位取得や専修免許状取得が目標としてはわかりやすいかもしれない。ただし、1年間の大学院休業制度は、現状ではうまく機能しているとは言えない。なにしろ活用しているのは平成31年4月時点で全国172名しかいないのである。教職大学院ではないが、教育系の専門職大学院である星槎大学大学院教育実践研究科もぜひ活用してほしい。
認定講習等での学びは、専修免許状取得につながるものである。認定講習等とは、免許状認定講習、免許状認定通信教育、免許状認定公開講座利用をさす。開設できるのは、教員免許の授与件者である都道府県教育委員会、政令指定都市・中核市と大学等になる。
任命権者が必要と認めた学修は、審議会でも上がっていた民間の研修が想定される。しかしながら、今の立て付けでは都道府県教育委員会が認定することになるので、どう扱うかが来年4月までに問われている。学会や研究会の研修も候補になるであろう。
教員は、教育に関わる専門職である。それゆえに、教職大学院があるわけだが、大学院に通学するまでもなく現場は学びの連続だ。対象は一人ひとり異なるわけだし、状況も二度と同じことなどない。それゆえに、よく言われることではあるが、理論と実践を架橋することが現職者の学生が所属する大学院での学びの基本となるはずだ。おそらくここが、評価の分かれ目となるのであろう。
さて、今回ここまで取り上げていないが重要な事項もある。前回触れたが、休眠中の免許や有効期限切れの免許状を持っている方の回復の講習に関してだ。今までは更新講習を活用してきたわけであるが、それはなくなることになるだろう。しかし、社会人経験のある人材は学校の現場にぜひ欲しいし、かつて教員を目指していて、社会人経験を積んだ方も相当数いるはずなのである。今回の地域の教育委員会の研修もそうだが、全国で確実にコミュニティ・スクールも進んでいる。令和3年時点で、6割の自治体、4割の学校が導入している。地域で、当事者となって教育を創っていくことが重要だと考える。
その動きを推進するためにも、休眠中の免許や有効期限切れの免許状の有効化が重要だと考える。
今回は、その提案をしたい。回復講習におけるイメージは以下のように考える。
・社会人が受講できること
・現在の学校の状況が理解できる内容であること
・これからの教育のあるべき姿を理解できる内容であること
・受講料は3万円程度であること
全国の志ある社会人が受講できるようにするためには、通信教育と遠隔授業が欠かせない。そして、通信教育で一般的に課題としてあげられる、孤立した自学自習の結果、学修の中途挫折という状況を起こさないような、教育に参画する意欲をエンカレッジする方法が求められる。
星槎では、今まで培った経験を活かして7月以降も取り組んでいきたいと考えている。
我々の最も大きな財産は、更新講習として受講していただいた全国17万人以上の方の声である。
毎度毎度の繰り返しになるが、教師の確保のために、教師とは以下のような職業だということを大いにPRできるように環境を整え、実現したらどうか。
「教員の日常は大変かもしれないけど、まとまった休みがある。」
「それなりの給与が保証される。」
「なにしろ、やりがいは十分すぎるほどある。毎日が学びだ!」
こんな生き方をしたいという方は、壮年者も含めてそれなりの数がいそうな気がするのだが、皆さんいかがお考えになるだろうか。今回もまたまた宣言するが、私も自分の人生の最後のステージで今一度現場で活動してみたいと思っている口である。
上記に加えて、新卒者向けには、学生支援機構からの奨学金の返還にも配慮することを示してほしい。
現在、学生支援機構の仕組みでは、返還免除になるには、大学院(修士課程・専門職学位課程・博士(後期)課程)修了の優秀な成果を収めた人だけだ。ぜひ、かつての様に教員として未来創造に責任をもって携わる方にも免除を適用していくことが必要なのではないか。
(スケジュール予測)
法案提出 2022年2月25日(最速6月改正法成立 7月施行)
2022年度受講対象者は、法令施行しだい制度適用見込み
研修新制度開始 2023年度
(著者紹介) 松本 幸広(まつもと ゆきひろ) 埼玉県秩父郡長瀞町出身のチチビアン。学生時代宮澤保夫が創設した「ツルセミ」に参加。大学卒業後宮澤学園(現星槎学園)において発達に課題のあるこども達を含めた環境でインクルーシブな教育実践を行う。その後、山口薫とともに星槎大学の創設に従事し、いわゆるグレーゾーンのこども達の指導にあたる人たちの養成を行う。星槎大学においては、各種教員免許課程の設置をおこない、星槎大学大学院の開設も行う。「日本の先生を応援する」というコンセプトで制度開始時から更新講習に取り組んでいる。新たな取り組みである、「 1day講習」の講師も務める。 |