教員免許状更新講習制度改正(廃止)のゴールは見えたが、その中で課題となることも見えてきた。
合わせて検討されている、教育公務員特例法(以下「教特法」)改正がらみで、取り上げられている学校教員の働き方改革についてもそうだが、何となく見え隠れするのは、学校のICTとの絡みに関することだ。
働き方改革については前回も触れたが、合理性と多様性のバランスの中で考えていくことが肝要だ。新型コロナの結果「働く意味」とか「人との関わりの意味」など生きるための本質論的なことを社会全体で考えざるを得なくなった(はずである)。そこでのキーワードは「多様性」と「持続性」だったのではないだろうか。学校現場においても、「授業の目的」や「行事の目的」などに関して本質的な議論が進んだのではないかと感じている。それゆえに、学校教員の働き方改革の議論は、単純な時間管理の議論に矮小化することなく、専門職としての教員の自律性を基盤とした議論を期待したい。この流れからして、私は教特法の改正は不要だという意見である。
そして、おそらくそのような中で注意すべきなのは、ICTとの絡みのような気がする。
前々回触れた、星槎大学の更新講習も掲載されている、「新たな教師の学びのための検索システム」では、そこに掲載されている基本スタイルはWebを活用した学びなのである。
中教審における議論でも、更新講習に関する現場への調査の結果、その中での廃止への明らかな根拠は、総合的な満足度の数値のみであった。しかしながら、それはもっともなことで、法令でやらねばならないと決められた講習30時間を、指定された時期に、第一希望でもない内容の講習を、自身のお金と時間を使って(交通費もばかにならないし、宿泊費が必要な場合もある)受講することであれば、不満が先に立つのは当然だ。そんなことは、お金を使って調査しなくともわかることではないか。調査では、実践的な内容ではなかったので役立っていないという意見もそれなりの数あったようだが、これは二通りの見方ができる。講習内容が明後日の方向を向いていた現場無視の大学教員の独りよがりものだったのか、ノウハウものではなかったのかの2種類だ。しかしながらこれもバランスの問題で、教育の現場では魔法の杖なんてないなんてことは、心ある経験豊かな教員はみなわかっている。相手も状況も同じことなどないのであるから当然だ。現場をわかってないなと思わせる大学教員の話であれ、それを意義あるものに変換して、実践に活かすのが日常こども達を目の前にしている教員の腕だ。とは言いながら、いずれにせよ、これで制度廃止に向かったわけである。それであれば、基本的に講習がWeb活用になれば課題解決のような気もする。
星槎大学の更新講習も、法令改正を考えると残すところあと2回(5/29と6/26)となった。両方とも、私が講師をさせていただくが、制度の開始から関わってきたものとしてはある意味感無量でもある。この講習は、
1day講習と我々は呼んでいるもので、制度的には通信教育とオンライン講習の融合だ。更新講習を構成する、必修6時間、選択必修6時間、選択18時間のうち学習すべき約25時間は通信教材による自己学習で行い、残り約5時間の3領域の講習と試験を1日でやるのである。新型コロナのこともあり、2020年は対面講習をなくして通信教育での講習に振り替えたのであるが、制度の草創期「通信教育だと不安だ」という受講生の声をいただいたのを思い出し、
1day講習を企画した。日本の先生を応援するというコンセプトでずっとやってきたので、最後の講習がこれになるのは必然だった気もする。(この辺りの経緯はこのコラムでもたどってきたので興味ある方は是非お読みいただけるとありがたい。)
ずいぶん回り道をしたが、気になるのは現場の教員とICTとの絡みなのである。
教育新聞の報道によると、教員志望の学生が減っている理由は「長時間労働など過酷な労働環境」「部活顧問など本業以外の業務が多い」「待遇(給料)が良くない」「保護者や地域住民への対応が負担」などが上位とのことだ。これらの回答は、教員志望の学生への調査であるとのこと。現場を知っているわけではなく、印象なのだろうが、確かになと思われる節もある。
このような状況であるならば、ICTはとても重要であり、状況を改善する武器になるはずなのであるが、どうも現職の先生の様子を更新講習の業務を通じて見ていると心配なのである。本当ならば、新たなものは学校が真っ先に取り入れてみるべきだと個人的には思っているし、それゆえに教員のメンタリティは常に前向きでクリエイティブであるべきだと思っているのであるがどうもそこが微妙らしい。
確かに、教育の側面として正しい知識と行動の伝授は社会化機能としてあるのであろう。そして、その学校教育の中でそこそこいい評価を受けてきたのが、今の教員なのかもしれない。改訂された学習指導要領の基盤となった考え方に「目的を自ら考えだす」「答えの無い課題」などの言葉がある。かつての文脈では「なにかおかしい」といわれていたはずの言葉だ。明らかに、変化しているのである。そしてこども達にはそれに続く未来を創っていく能力が必要とされるであろうし、そのための教育が必要と言われているのだ。しかし、現代や今をなかなか扱えなかったのが「社会科」でもあり学校という装置でもあったのにできるのであろうか。
そのためにも、ICTは真っ先に活用してほしい。特に、主体的でありつつ協働的な学びを実現するためにも、インターネットはとてつもないリソースになる。昭和では考えられなかったツールだ。
「世界には、あなたが知りたいと思うことを知っている人がいる」
「世界には、あなたと同じように考えている人がいる」
「世界には、あなたと違った考えを持つ人がいる」
昭和の時代には考えられなかった量の情報に私たちは今アクセスできるようになっている。この事実をポジティブに考えて創造的に利用することが重要だと考えている。だからこそ、夥しい情報の中から必要な情報を選択し活用していく力が重要になるはずなのだ。その文脈で、グーグルなどの検索エンジンの価値が大きいのだ。
私も年齢を重ね、知っているような気がするが思い出せないことが山の様に毎日襲い掛かってくる。つい会話には「あれ」「それ」が多く登場する。とても自分の脳だけでは立ち行かない。人の力を借りるために、インターネットが必要だ。
おそらくこのように、潔く自分の力の無さを認め人にすがるようにインターネットに頼ってきた私のような者と、他者に頼らずに自立することこそ人としての完成形と思われた方で方向が別れるのかもしれない。人生の道中で、人に教わり自立して、次は人に教える存在となるというモデルは私は違う気がする。個人的実感では、人に教わり学ぶことで自立した気になったものの、果てしない旅のように、いつになっても人に学び続け、学ぶという型を身に付けることができたところでそろそろ終わりになっていく。それが、Life long learning なのかなと今は考えている。
ということで、ICTをなかなか受け入れることができない方は「こんな便利なものがあるのか」といってぜひ取り組んでみてほしい。「今更新しいことなど結構」などと言わずに、やってみてほしい。「便利なことは必ずしもいいことではない」と思っていたとしても取り組んでみてほしい。このようなことをここでいうのは、かなりの数のベテランの現職の先生が、
1day講習の仕組みに抵抗を示す姿を見ているからなのだ。なにしろ、申込はグーグルフォーム、講習はZOOMなので、言葉を聞いただけで抵抗がある方もいるかもしれない。GIGAスクール構想などという黒船的要素にやらされるのではなく、ぜひご自身で新たな仕組みの活用をやってみてほしいのだ。
そうはいっても、今このページをご覧の方々は、インターネットを利用しているからこそ見ることができるわけなので、ぜひ周りの先生方に、こんな世界に開かれた仕組みがあるのだということを伝える側になってほしい。
研修をせねばならぬと法律に書いてあるからやるのではなく、よりよく生きるために、そしてよりよく生きることを伝えていくために、「学ぶ」喜び、楽しさを未来へ伝えていく仕事に取り組んでいってほしい。
だからこそ、毎度毎度の繰り返しになるが、教師の確保のために、教師とは以下のような職業だということを大いにPRできるように環境を整え、実現したらどうかという私の思いを今日も書きます。
「教員の日常は大変かもしれないけど、まとまった休みがある。(ぜひ実現してほしい)」
「それなりの給与が保証される。」
「なにしろ、やりがいは十分すぎるほどある。毎日が学びだ!」
こんな生き方をしたいという方は、壮年者も含めてそれなりの数がいそうな気がするのだが、皆さんいかがお考えになるだろうか。今回もまたまた宣言するが、私も自分の人生の最後のステージで今一度現場で活動してみたいと思っている口である。
上記に加えて、新卒者向けには、学生支援機構からの奨学金の返還にも配慮することを示してほしい。
現在、学生支援機構の仕組みでは、返還免除になるには、大学院(修士課程・専門職学位課程・博士(後期)課程)修了の優秀な成果を収めた人だけだ。ぜひ、かつての様に教員として未来創造に責任をもって携わる方にも免除を適用していくことが必要なのではないか。
◆国会審議も間もなく終わりになるでしょう。毎回多くの方に読んでいただきありがとうございます。遅ればせながら、感想などぜひ、メールで送信いただければありがたいです。 (松本)
y_matsumoto@seisa.ac.jp
(スケジュール予測)
法案提出 2022年2月25日(最速6月改正法成立 7月施行)
現在、衆議院文部科学委員会にて審議が完了し、参議院文教科学委員会審議中
2022年度受講対象者は、法令施行しだい制度適用見込み
研修新制度開始 2023年度