2021年8月5日
なにしろ、「教師の資質能力の確保」「教師や管理職等の負担の軽減」「教師の確保を妨げないこと」を達成する見直しが必要なのだ。それも、この件だけ切り離して速やかに答申しなければならないのだ。更新講習を今までに受講した教員の調査も前回第3回委員会で報告された。さあそろそろ佳境なのである。
ついては、オンラインで会議傍聴が可能なのでやってみた。通常会議資料はその場で傍聴するともらうことができるのであるが、今の案内では会議前にホームページにアップロードするのだそうだ。リアルタイムでその場で傍聴するより快適だ。傍聴したい会議はたくさんあるので、このやり方は今後とも続けてほしいものだ。
私の予想では第4回教員免許更新制委員会は7月末までに開催と踏んでいたが、「中央教育審議会「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会(第3回)・教員免許更新制小委員会(第4回)合同会議」として、8月4日に開催された。
今回の見直しの背景を整理してみる。
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のまん延で、2020年から世界的混乱が続いている。各学校でも、散発的に学校での感染や、感染のための臨時休校なども起こっている。集まる場であった学校も、いわゆる3密を避けて活動する必要性が出てきている。遠隔授業の流れも、まずは大学を皮切りに小中高全般にやっと届いた。GIGAスクール構想として政策を進めていたのはこの状況にズバリはまった。オリンピックが夏休みにあたっているのもいいような悪いようなである。
もう平成も終わったのに、いつまで昭和をやっているのだと揶揄された学校現場も、この状況を追い風に変わるのではないかといわれてもいる。政府はSociety5.0を押し出して文部科学省をしっかり煽っている。更新講習の検討状況の報道に反応して「10年なんて更新に長すぎ」というような反応をしたのは、内閣府に置かれた「規制改革推進会議・雇用・人づくりワーキンググループ」からだった。経済産業省は、「未来の教室」と銘打って、形式的には文部科学省を立てるが、実質的にはかなり上から目線でいままでどおり学校教育の変革を迫っている。
まあ、これは今に始まったことではないのではあるが。経済が大事なことはよくわかるが、経済は【経世済民】「けいせい‐さいみん」であることを分かっているのであろうか。儲けるとは何かを問うのも教育、経済格差を問うのも教育、未来を創っていくのも教育、社会の固定化を助長するのも教育、重要で深い本質的テーマだ。
COVID-19はとかく、物事の本質を問う機会を我々に突き付けている。
今回の見直し背景のもう一つの重要な点は「教員不足」だ。
前回触れたように、教員の採用選考試験の競争率は顕著に減少しており、平成12年度に13.3 倍と過去最高を記録した公立学校の倍率は、平成30年の4.9 倍まで年々低下が続いている。
まだ、倍率が出ているのだから不足ではないだろうと思われるかもしれないが、実際にはかなり困ったことになっている。「令和2年度(令和元年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況について(文部科学省)」という報告がある。この報告をもとに東洋経済ON LINEが以下の記事を書いている。
教員採用選考試験の倍率低下に歯止めがかからない。ICTの活用、1クラス35人への少人数学級化、教科担任制など、教育の質の向上を図る取り組みは進み始めた。ところが、「教育は人なり」といわれる肝心の担い手の問題が教育の足元を揺さぶっている。 教員の人事に関する権限を持つ都道府県や指定都市の教育委員会などによる公立学校教員採用選考試験の実施状況を取りまとめた文部科学省の調査結果を見ると、小中高など学校全体の採用試験倍率は3.9倍。前年度(4.2倍)を下回り、ピークだった2000年度の13.3倍から右肩下がりが続く。 小学校教員の倍率は調査結果が残る1979年以来、過去最低の2.7倍。佐賀県と長崎県の1.4倍など、2倍を切るところも12に及んだ。 競争率は3倍を切ると、教員の質の維持が難しくなるといわれている。1次試験予定日は近隣県市で同一に設定しているケースが多いが、複数を受験することも可能なため、重複合格者が辞退する可能性もある。実質的な倍率はさらに下がるおそれがあり、選抜機能の低下が懸念される。 倍率低下の理由の1つは、近年の退職者数の増加に伴って、より多くの教員を採用する必要があるためだ。戦後に採用された教員の退職と、団塊ジュニア世代の子どもの増加が重なった1980年度の公立学校全体の採用者数は、最高の約4万5000人に達した。この約40年前に大量採用された教員が退職時期にさしかかったことで、2020年度の採用者数は約3万5000人となった。これは00年度の約1万1000人の3倍以上の数だ。
2021/05/23 (東洋経済ON LINE) |
何しろ教員が必要なのである。
確かに日本全国でみると、児童生徒の数は減少している。その一方で、35人学級は小学校から実現していく。これは地域差があって、全国的にみると多くの地域で「なにをいまさら」の状況ではある。大都市圏への人口集中が続いているせいで、大都市圏では現在でもただでさえ学級数が増加しているところがある。そういう地域ではまさに教員不足になる。
加えて、大量退職の時期に今は重なっている。定年を迎え、本当にお疲れ様というところなのではあるが、そうは言えない事情もある。「再任用で引き続きお願いします。そうでないと人材が確保できないのです。非常勤講師としてどうぞお願いします。」とお願いするしかない地域も多いのだ。
以下は、7月5日、第3回更新講習小委員会で「教師の確保を妨げないこと」を検討するために提示された資料からの引用である。X県の現状について、調査データ分析をもとに考察した内容である。
①臨時的任用教員および非常勤講師は、学校現場にとって必要不可欠な存在となっている。 ②X 県内では、 60 歳以上の世代が、非常勤講師の6割以上を担うとともに、臨時的任用教員についても1割以上を担っており、主たる担い手として重要な役割を果たしている。 ③ところが、2009 年の教員免許更新制導入時に第1グループとなった1955 年生(現66 歳)の教員の免許が、今年1 月末に更新講習修了確認期限を迎え、X 県ではこれらの多くが失効となった。さらに第2グループの1956 年生(現65 歳)の教員の免許が、2022 年1 月末に更新確認期限を迎え、更新されない場合は今年度末に失効する。 教員免許更新制度が現状のまま続く場合は、今後毎年、更新対象となる退職者の教員免許の多くが失効していき、非常勤講師の需要に対する主要な供給源が失われる可能性が高い。すなわちX 県では来年度以降、非常勤講師・臨時的任用教員のなり手を徐々に失い、 公立小・中学校における教員未配置(教員不足)が深刻化していく可能性が高いことが示唆される。 ④他の都道府県・政令指定都市についても、非常勤講師・臨時的任用教員の任用実態について同様の傾向にある可能性が高い。 「教員免許更新制度が今後の教員不足に及ぼす影響について」(慶應義塾大学 佐久間亜紀研究室) |
まさに、更新講習があるからこそ教員不足となっている現象となる。
調査結果にはなかったのであるが、星槎大学の更新講習はこのような再任用の方も多く受講している。解決する方法は、シンプルに受講すればいいのであるが、「頼まれて残ることになったのに、自分でお金と時間を使ってまでやる必要はあるのか」というところになるのであろう。
これに関連する調査結果が、7月5日に結果が報告された更新講習にかかわる調査結果にもある。項目は「⑬ 55 歳時における免許状更新講習の受講負担」である。
以下調査結果からの引用。
「55 歳時における免許状更新講習の受講負担が早期退職のきっかけになるかどうかを尋ねたところ、「はい(早期退職のきっかけとなると思う)」36.8%と「いいえ(早期退職のきっかけとは関係ない)」39.7%が同程度となった。」
更新講習を受講するのであれば、いっそ早期退職をしようと考える方が36.8%もいることには驚いた。もし単純に、ただでさえ、再任用でお願いしなければ足りないのに、定年前に退職されたらピンチである。
しかし、これ更新講習のせいなのであろうか。ちなみに、昨年度私の講習を受講していただいた方の、283人中33人が56歳以上であった(12.0%)。ちなみに、60歳以上は27人(9.5%)であった。
さあ、やっと本題の第四回委員会だ。
今回の会議(第4回小委員会)は、「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会(第3回)と合同会議として開催された。大枠で言うと今年1月に発表された「「令和の日本型学校教育」の構築を目指して(答申)」を受け、その実現を目指した諮問を受けてスタートした「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会のもとにおかれた、教員免許更新制小委員会なので、親委員会と合同開催である。
諮問を受けて、この親委員会が検討すべきことは以下の5つになる。
①教師に求められる資質能力の再定義
②多様な専門性を有する質の高い教職員集団の在り方(採用、育成、キャリアパス、管理職の在り方)
③教員免許の在り方・教員免許更新制の抜本的な見直し(必要な教師数の確保とその資質能力の確保)
④多様化した教職員集団の中核教師を養成する教員養成大学・学部、教職大学院の機能強化・高度化
⑤教師を支える環境整備
そして、③の一部である教員免許更新制の検討を先行して行うために小委員会ができたわけだ。
3回の会議を経て、小委員会の出した8月4日時点での見解は大まかにいうと以下のようなものであった。
①更新講習導入後10年以上が経過し、社会的な変化は速度が向上すると共に、非連続化ともいえる
②教師の研究環境も変わった(体系的・計画的実施、オンラインの進展)
その中で
①教師は学び続けなければならない
②教師の学びも、個別最適化された主体的な、対話も含めた適切な目標設定をした、質の高いものでなければならない(そのためにもデジタル技術の活用が必要)
具体化するためには
①教師の研修履歴等の記録・管理が必要
②教職員支援機構の「校内研修シリーズ」などのオンライン講座など有効
③教育委員会の研修や、大学や民間事業者等のプログラムも有効
④「知識伝達型」でない、協議・演習型の研修も有効
⑤となると更新制度は、10年スパンが妥当か検討が必要
⑥状況によっては、将来的には更新講習は必要なくなるかもしれない
という内容の検討をしていることが明らかになった。
そうはいってもこれは、資料からの私の読み取りである。
会議は、当日の3つの議事に関して、今までの会議や過去の答申から作成した資料を基に、文部科学省の役人が説明をして、それに対して委員が意見を述べるという形で、2時間半を要した。これからは、出てきた意見を踏まえた形で、審議のまとめを作成して、それを会議で敲いていくことになるのであろう。
以下のページに資料が格納されている。
また、会議の様子は以下のページで見ることができる。
ご覧になった方は、こんな感じの会議なのだと不思議に思われる方もいらっしゃるかもしれない。しかし、こんな大人数の会議であればまあ仕方ないよなと思われる方もいらっしゃるかもしれない。対話を通じた議論が必要なはずなのになあと思われる方もいらっしゃるかもしれない。
同じような縮図は、今回の会議で主たる内容となっている「教師の学び」にもいえるであろう。
言っていることとやっていることの乖離がなるべくないようにしたいものだ。
さあそれでは、更新講習制度はどうなっていくのであろうか。
今年1月の令和答申(「令和の日本型学校教育」の構築を目指して)にある日本型学校教育の実現を目指すために、どう教員の学びをシステムとして支えるのかがテーマであるので、一般に「養成」「採用」「研修」といわれるすべてが重要になる。現実問題として更新講習が今絡んでいるのは、「採用」「研修」の部分だ。
具体的には、今回の検討で求められている解は、以下の実現である。
A: 教師の資質能力の確保
B: 教師や管理職等の負担の軽減
C: 教師の確保を妨げないこと
ここからは、私の個人的意見である。
【私なら、更新講習をこうする】
1.全般
更新講習制度をなくすのではなく、現在運用している更新講習制度を抜本的に変えることで、教師の資質能力の確保、教師や管理職等の負担の軽減、教師の確保を妨げないことを実現する。
また、そのための基盤として、発行された教員免許の都道府県を超えた一括管理を実施する。国はもちろん、授与権者である都道府県教育委員会、課程認定を受けている大学が協力することが重要。
2.更新期限
今まで通り、10年間とする。
3.更新方法
認定されたプログラムにて30時間以上研修することで完了。認定プログラムは、1時間1ポイントとして換算。ただし、プログラムに領域区分があり領域ごとに必要最低ポイント数の条件がある。
4.受講期間
10年間。ただし、5年間の間に15ポイントは修得していることが条件。
5.受講対象者
教員免許状所持者すべて。
6.講習会場・講習方法
自宅での受講を基本にオンライン講習。
7.受講費用
現職教員の場合、全額公費負担。現職でない場合は、全学基本個人負担。
さあ、どうなるであろうか。国会での教育職員免許法改正でいくのか。施行規則や更新講習規則の省令改正で抜本的に運用を変えていくのか。
しかしながら、教師という職に多くの方々が魅力を感じて、自ら学ぶことで社会を繋いでいく一員としての実感を得るようになっていってほしいと思っている。
思い切って、以下のようなコンセプトで、教員を社会に伝えたらどうであろうか。
「教員の日常は大変かもしれないけど、まとまった休みがある。」
「それなりの給与が保証される。」
「なにしろ、やりがいは十分すぎるほどある。毎日が学びだ!」
教師は、「ちょっと特別」であっていいと思っています。というか、どの職業も「ちょっと特別」なはずで、変に一律にすることはいかがなものかと思っています。
(スケジュール予測)
更新講習に関する答申 最速 2021年9月
省内調整・法案準備
法案提出 2022年1月(最速5月改正法成立)
周知移行期間 最低1年
2022年度受講対象者は現制度適用
新制度開始 2023年度
2023年度は新制度への移行期間で旧制度との併用
更新講習改正法の改正内容は ①講習内容 ②講習時間 ③対象者 ④受講期間など詳細は省令か?
(著者紹介) 松本 幸広(まつもと ゆきひろ) 埼玉県秩父郡長瀞町出身のチチビアン。学生時代宮澤保夫が創設した「ツルセミ」に参加。大学卒業後宮澤学園(現星槎学園)において発達に課題のあるこども達を含めた環境でインクルーシブな教育実践を行う。その後、山口薫とともに星槎大学の創設に従事し、いわゆるグレーゾーンのこども達の指導にあたる人たちの養成を行う。星槎大学においては、各種教員免許の設置をおこない、星槎大学大学院の開設も行う。「日本の先生を応援する」というコンセプトで制度開始時から更新講習に取り組んでいる。新たな取り組みである、「1day講習」の講師も務める。 |