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2021/07/14

どうなる教員免許更新制 1 今どうなっているのか

Tweet ThisSend to Facebook | by 星槎大学 事務局
2021年7月14日

 さる7月10日、毎日新聞に「教員免許更新制廃止へ 文科省、来年の法改正目指す」という記事が毎日新聞に躍った。これは、どういうことなのか。記念すべき「どうなる教員免許更新制」第一回では、つまり今どうなっているのかということに焦点を当てる。

 そもそもの具体的制度の始まりは、平成18(2006)年7月11日の中央教育審議会答申「今後の教員養成・免許制度の在り方について」からだ。この答申では3つの新たな具体的取り組みが提示された。1つ目は教職課程の必修科目として教職実践演習という科目を配置すること。2つ目は教職大学院の創設に関して。3つ目が免許更新講習であった。

 1つの目教職実践演習というのは、大学に置かれている教職課程に最後の関門科目を設定するというものだ。日本中に毎年これだけ教員免許を取得している学生がいるが、その中にはどう考えても教員には不適格の者がいる。単位を取れれば免許が取れるということではなく、教育実習を終わってからでも、教員養成にあたる各大学は免許を出すか出さないかの最後の審判にあたるべしということを教職課程を持っている大学に課したのである。簡単に免許を取らせるなということだ。

 2つ目の教職大学院は、教員のキャリアアップというフィールドを制度化したものだ。MBAがアメリカでもてはやされて、日本に入ってきた制度が専門職大学院だ。平成15年に専門職大学院制度が始まり、経済経営系の次が法科大学院(平成16(2004)年)でその次が教職大学院(平成19(2007)年)である。
 この頃は、まさに新自由主義が正解だと世間が思っていたときだ。「自由競争」「自己責任」という言葉のもと、皆さん好き勝手に、いったりやったりしていた。教員バッシングの嵐の頃でもあった。教員もビジネスマンを見本に学びなさいと言わんばかりであった。

 それゆえ、3つ目の免許更新講習はあっさり平成19(2007)年法改正となった。
 よくすっといったなという気もする。なにしろ、この時から後に取得した免許は期限を付けるというだけならともかく、既に所持している免許に関しても更新講習を受講させるというのである。かなり無理のある法改正だ。思い返せば、全国に約100万人いる教員への社会からのバッシングなのではないかという気もする。確かにあの頃、大学卒業は極めて一般的になっており、新自由主義のもと自由競争にさらされ、若い年齢の社員に能力主義という名のもと使われるということがバブルはじけた失われた20年で展開していた。そんな中、自ずと人の上に立てる「教員」という存在は、妬み嫉みの日本社会からすると、浮いた存在になっていたのかもしれない。
 教員免許に期限を付ける法改正後、この件を主導していた中央教育審議会教員養成部会は以下の説明をした。
 「教員免許更新制においては、その時々で教員として必要な知識技能の保持を図るため、制度導入後に授与される免許状(以下「新免許状」という。)に10年の有効期間を定めることとし、免許状の有効期間の更新を行うためには、期間内に免許状更新講習(「以下「講習」という。)の課程を修了することが必要であるとした。また、制度の導入以前に取得された免許状(以下「旧免許状」という。)の所持者についても、一定期間毎に講習の受講を義務付けるため修了確認期限を設定し、当該期限までに講習の課程を受講・修了することが必要であるとした。」
 さて、この経過措置を定めた教育職員免許法附則の説明は以下の通りである。
 「最初の修了確認期限を到来させる年齢を35歳とするのは、免許状の授与を受けてから10年以上を経た者を対象とすることが適当であるためであり、最後の割り振りを55歳とするのは、59歳などで割り振ると、定年間際の者について講習の受講義務が生じ不適当であるためである。」(「教員免許更新制の運用について」中央教育審議会教員養成部会) 
 ということで、平成23(2011)年3月に満35、45、55歳の方が、平成21(2009)年4月から2年間で講習を受けて免許更新することになったのである。しかし、学びは人に強いるものではない。強いられた学びのつまらなさは皆さん身に染みてこたえたのではなかろうか。ある意味学校での学びを問い直すことになったかもしれない。
 そして、平成20(2008)年度は1年間をかけた周知期間である。テレビでもラジオでも、慣れない文科省初等中等教育局の職員が棒読みで一生懸命説明していたのを思い出す。

 そして、受講者も開設者もバタバタやって正式な講習を始めているなか、平成21(2009)年7月には政権交代となり、民主党議員(参院のドン輿石さんでしたね)から「更新講習をなくす」という発言も出てきたりしたが、政治とはまさに言葉先行が当たり前の世界で、その言葉も何とはなしに消えていった。当時の文部科学大臣は川端さんだった。
 しかしながら、この時から更新講習は法に則り粛々と進み、5年後には附則の通り見直しが行われ、必修講習12時間、選択講習18時間から、必修講習6時間、選択必修講習6時間、選択講習18時間と変更された。このときは、平成26(2014)年9月法改正して、平成28(2016)年改正法が施行である。

 ということで、ここまでが今の制度までの道のりである。
 そして、制度開始から現在までに、何度かことあるごとに制度見直し・廃止の話が上がっていた。しかしながら今回の報道は、「中央教育審議会 教員養成部会 次期委員会への申し送り」ということがきっかけとなって始まっている。
 令和3(2021)年2月8日の委員会の中での「教員免許更新制や研修をめぐる包括的な検証について(次期教員養成部会への申し送り事項)」と、
 「これまでの教員養成部会における教員免許更新制に関する主な意見」をぜひご覧いただきたい。

 この申し送りの意見は、読んでいただければわかるようにすべて、制度存続前提となっている。どのようにすればよりよくなるかという大変ポジティブな意見となっている。
 
 この申し送りを受けて、令和3(2021)年3月12日 萩生田文科大臣は、中教審に対して、教員免許更新制に関して、「現場の教師の意見などを把握しつつ、今後、できるだけ早急に当該検証を完了し、必要な教師数の確保とその資質能力の確保が両立できるような抜本的な見直しの方向について先行して結論を得てほしい」という諮問をおこなった。申し送りの通りの諮問である。その際、教員制度改革の包括的な取りまとめと切り離し、先行して結論を示してほしいとしたことから今回の動きが始まっている。
 確認になるが、諮問されたのは「必要な教師数の確保とその資質能力の確保の両立のため」なのである。しかし、中教審教員養成部会の申し送りに先立つ2月2日の記者会見で更新制度の見直しに本気で取り組むと宣言した後の流れなので、同じ会見で「教員免許制度の抜本的な見直し」にも触れたことで今回の更新制廃止が出てきたのではないかと推測する。

 また、この諮問に合わせるように、規制改革推進会議・雇用・人づくりワーキンググループからは、教員免許の有効期間が10年は長すぎるという意見がでた(3月15日)。 教員免許の更新は、もっと短い期間が適切だろうという意見である。まさに抜本的な見直しの流れである。

 中央教育審議会では、教員養成部会の中に、教員免許更新制小委員会を置いて検討を始めた。第一回は4月30日、第二回は5月24日、そして第三回は7月5日であった。
 この回(7/5)では、答申にあった「現場の教師の意見などを把握しつつ」の結果である調査結果が資料として提示された。令和3年度「免許更新制高度化のための調査研究事業」である。この調査の自由意見の中の回答で50.4%を占めたのが、「制度自体を廃止すべき・免許更新制度に意義を感じない」と分類された意見であった。ちなみに回答割合を出すために、無回答や「なし」「特になし」等の回答は分母に含んでいない。含むと40.5%となる。
 これを受け、翌日「教員免許更新制に不満噴出 半数超「廃止すべき」文科省調査(しんぶん赤旗)」「教員免許に10年の期限「廃止して」現場から多数の声(朝日新聞)」があがった。そして、7/6の記者会見で幹事社として質問したのが毎日新聞の記者であった。

 そして、7月10日 毎日新聞に、「教員免許更新制廃止へ 文科省、来年の法改正目指す」という記事が躍った。
 ちなみに記者会見での質問は
 「1点質問させていただきたいなと思います。教員免許更新制に関してなんですけれども、昨日の中教審の小委員会の方で文科省の結果として、調査結果としてですね、これまで言われていた教員の負担というだけではなくてその内容に関してもかなり厳しい結果が出ております。それで、これまでの文科省の把握している調査においてはですね、内容に関しては一定評価を得ているというものだったわけですけれども、それとはちょっと違った結果が出ていて、たぶん大学の関係者なんかはショックを受けてらっしゃると思うんですが、この結果に関して、大臣としてどのように受け止めてらっしゃるか。それから、小委員会は、制度の存廃も含めて今後議論するとおっしゃってますけれども、今後の議論にどのようなことを期待されますでしょうか。」
 大臣の回答は、
 「昨日開催された教員免許更新制小委員会において、現職教師の教員免許更新講習や現職研修に関する認識等に関するアンケート調査結果が公表されたことは承知しております。(中略)教員免許更新制につきましては、本年3月12日に、中央教育審議会への諮問の中で、必要な教師数の確保とその資質能力の確保が両立できるよう、何らかの前提を置くことのない抜本的な検討が行われている途上ですが、引き続き、議論を深めていただきたいと考えております。私としては、そこで議論をしっかりと見守りつつ、スピード感を持って制度改革を進めてまいりたいと思います。(後略)」
 ということで、制度廃止には触れなかった。触れなかったことも一部でそれなりの話題になった。この後、この記者は取材をしたのであろう。そして、それなりの責任ある立場の官僚から「今夏にも廃止案を中央教育審議会に示し、来年の通常国会で廃止に必要な法改正を目指す」という話を聞いたのだと思う。
 おそらく、この官僚は大臣の意向を何らかの意図でリークしたのだと考えられる。意向は何か? 総選挙を睨んでのものか? 教育の管理を強めるためか? そうなると、今後の流れはかなり不確実ではあるが、本当に法改正を伴うとなると以下の流れが想定される。

(スケジュール予測)
更新講習に関する答申 最速 2021年9月
省内調整・法案準備
法案提出 2022年1月(最速5月改正法成立)
周知移行期間 最低1年
2022年度受講対象者は現制度適用
新制度開始 2023年度
2023年度は新制度への移行期間で旧制度との併用
更新講習改正法の改正内容は  ①講習内容 ②講習時間 ③対象者 ④受講期間など詳細は省令か?

 ちなみに、以下の記事が2020/6/9教育新聞にあった。
 1年前のこれも、今回の伏線ではあるが、その内容が・・・なのでどう取り上げてみるか。ある意味今回の大臣の意向を推し量る材料にはなるかもしれない。

 萩生田光一文科相は6月8日の講演で、「学校の先生こそ、本当は国家資格の方がいいのではないか」と述べ、教員免許を国家資格に変更し、現在の都道府県ではなく、国が教員免許を交付すべきだとの考えを明らかにした。また、教員免許の更新講習に「ものすごく負担がかかっているのではないか」として、教員免許を取得して10年後に講習を受けて免許を更新すれば、20年後と30年後には更新講習を受けなくて済むようにすべきだとの考えを示した。
 質疑応答では、教員の人材確保について聞かれ、「教員という職業が、若い人たちにとって魅力的な職業であり続けることがすごく大事。そのためには、やりがいを感じられる環境を作っていくことが必要だ」と答えた。その上で、「文科省としてオーソライズ(公認)しているわけではなくて、私個人の私見」として、「小中学校の設置者は市町村。しかし学校教員は政令指定都市以外では都道府県の職員で、国が3分の1の人件費を持つ。誰が責任者なのか、すごくあいまい。私は学校の先生こそ、本当は国家資格の方がいいのではないか、国の免許の方がいいのではないかと、ずっと思っている」と述べた。
 教員免許を国家資格にするメリットについては、「例えば、結婚して居住地が変わったとしても、子育てが一段落したら、また教員として働けるようにしたい。いまは都道府県単位の免許になっているので、前の県では先生をやっていたけれども、いま住んでいるところでは(免許の)取り直しをしないと先生ができないという不具合もある。1回免許を取れば、ずっと生涯使えるような仕組みを作ればどうか、というイメージを持っている」と説明。「これが教員のプライドにつながるのだったら、ぜひチャレンジをしてみたい」と意気込みを見せた。

 最後に、我々も開設者として、文部科学省には更新講習廃止の報道について担当部署に質問してみた。
 回答は以下の通りであった。

お問い合わせいただいた件につきまして、
教員免許更新制については現在中央教育審議会にて抜本的な検討を進めているところであり、現時点ではまだ方向性を打ち出すには至っておりません。
文部科学省としましては、中央教育審議会での議論を踏まえ、制度の見直しに関する検討を速やかに着手してまいりますが、現現段階で教員免許更新制の廃止を固めたという事実はありません。

 という予想通りの回答であった。

 次回以降は、教員免許更新制小委員会の議論を追いながら、どんな新制度が考えられるのかを考えてみたい。講習内容はどうなるのか、講習時間はどうなるのか、対象者はどう考えていくのか、受講期間ははてさてどうするのか、ほんとに廃止になるのか、注目です。

(著者紹介)
松本 幸広(まつもと ゆきひろ)
 埼玉県秩父郡長瀞町出身のチチビアン。学生時代宮澤保夫が創設した「ツルセミ」に参加。大学卒業後宮澤学園(現星槎学園)において発達に課題のあるこども達を含めた環境でインクルーシブな教育実践を行う。その後、山口薫とともに星槎大学の創設に従事し、いわゆるグレーゾーンのこども達の指導にあたる人たちの養成を行う。星槎大学においては、各種教員免許の設置をおこない、星槎大学大学院の開設も行う。「日本の先生を応援する」というコンセプトで制度開始時から更新講習に取り組んでいる。新たな取り組みである、「1day講習」の講師も務める。


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