2021年12月13日
思ったより冷静に事は進んでいる。
更新講習の発展的解消という名の制度廃止が粛々と進んでいる。さすが、日本の教員というわけなのであろうか。バタバタしている話はあまり聞かない。それとも、大きな事件に隠れて見えなくなっているということなのであろうか。
12月5日に
1day講習を受講した方21名のうち、2022年3月修了確認期限の方は8名、2023年3月期限の方は10名であった(その他の方が3名)。報道等の情報で混乱しないで皆さん受講されていた。まずは、ここが私の安心感であり、受講対象の方は冷静だと判断した理由だ。
さて、今回は今年度
1day講習をすでに受講された257名の方の受講者アンケートと、各領域の試験の最後についている「講習を受講しての学びの省察」というタイトルのコメントを紹介したい。
アンケートの回答数は、必修領域198名(77.04%)、選択必修領域199名(77.43%)、選択領域170名(66.15%)である。このアンケートは文部科学省の定型のものであり、問いのⅠが講習の内容・方法について、Ⅱが最新の知識・習得の成果について、Ⅲが運営面について回答を求めている。回答は、各問とも4段階評価となっており、1が「不十分(満足しなかった・成果を得られなかった)」、2が「あまり十分でない (あまり満足しなかった・あまり成果を得られなかった)」、3が「だいたい良い(満足した・成果を得られた)」、4が「良い(十分満足した・十分成果を得られた)」である。回答平均を4段階の数値で見ると、12月5日までの
1day講習の講習内容・方法は、必修領域が3.73、選択必修が3.90、選択領域が3.83となっている。また、最新の知識・習得の成果については必修領域が3.60、選択必修が3.80、選択領域が3.83であった。評価の3もしくは4が肯定的回答とした場合の講習の肯定率は、0.97となった。言い方によっては満足度97%などというのかもしれない。
現場でこれらの回答を見るにつけ、制度検討の本来目的である、「教師の資質能力の確保」「教師や管理職等の負担の軽減」「教師の確保を妨げないこと」のうち現行制度でもかなえられないものはない気がする。大切なことはどうひっくり返っても学ぶ本人の主体性なのであるから、今の制度のまま、研修コンテンツを提供する開設者によい講習になるようプレッシャーをかけ続ける方が現実的だと思っている。評価平均が3点を切ったら次回から開設できないとか、大学で教員養成課程を持っているとしたら教員養成課程の質を確認するため実地調査をするなどである。
個人的には、このコラムで今までも述べてきたことだが、あまりがっちりした管理の方向に進むのは教育という場ではいかがかという意見だ。極端な言い方になるが、多様性を認めていくという方向に反することになる可能性がある。もっと社会が、人間を、教員を信じてほしいと願っている。
さあそれでは続いて、必修領域の学びのコメントを見ていきたい。必修領域いわゆる「教育の最新事情」は基本どの開設者も共通の内容になる。厳密に言うと、以下の4区分最低8項目を取り上げ、それに応じた講師が担当しなければ必修領域講習として認可されない。
イ 国の教育政策や世界の教育の動向
・国の教育政策
・世界の教育の動向
ロ 教員としての子ども観、教育観等についての省察
・こども観、教育観等についての省察
・教育的会場、倫理観、遵法精神その他教員に対する社会的要請の強い事項
ハ 子どもの発達に関する脳科学、心理学等における最新の知見(特別支援教育に関するものを含む。)
・子どもの発達に関する、脳科学、心理学等の最新知見に基づく内容
・特別支援教育に関する新たな課題(LD、ADHD等)
ニ 子どもの生活の変化を踏まえた課題
・カウンセリングマインドの必要性
・以下の5項目の中からいずれか1つ以上
1 居場所づくりを意識した集団形成
2 多様化に応じた学級づくりと学級担任の役割
3 生活習慣の変化を踏まえた生徒指導
4 社会的・経済的環境の変化に応じたキャリア教育
5 その他の課題
以上の内容を、最低6時間で実施していく。内容を考えると、おそらく90分で1区分を実施、全部で4区分、それぞれの区分を2項目で構成して6時間になると考えられる。平均すると1項目45分だ。
令和4(2022)年度の講習は、必修・選択必修・選択の領域区分はなくなるとのことなので、このような条件はなくなり、単純に30時間となるようだ。それゆえ、今までの必修領域のような詰込み的な講義はなくなるのではないだろうか。今までの仕組みのような、講義45分で1項目では、そうはいっても駆け足にならざるを得ないかもしれなかったが、このような枠が外れたことでもう少し自由に講習がデザインできるかもしれない。
ちなみに現時点では領域制限がかかっている
1day講習では、それぞれの受講生にご自身の状況に応じてテキスト学修を進めてもらっているいわゆる通信教育であるから、対面講習と講習デザインは変わってくる。テキスト学修では項目に応じてその成果をWeb上で回答していく。テキストは、必要個所にハイパーリンクが張られ参考資料を見ることができるようになっている。そして、
1day講習当日は、1時間の講義で復習とテキストでは伝わりにくい点を取り上げる。そのうえで、受講生は修了試験に臨むわけだ。
この方式は、読んでわかるものであるならば読めばよい、講義で拘束するまでもないという当たりまえの考え方に基づいたデザインだ。本当であれば、1dayの1時間の中で協働学習したいのであるが、まずもっての目的は試験に合格して免許更新することであるので、そこに時間をかけることができないのが残念である。現在は、受講生が少ない回はできるだけインタラクティブに進めるようにしているが、本当に技術の進展は色々なことを可能にしている。毎回、受講生は北海道から沖縄・九州までつながっている。
さて、このような中一番免許状更新講習としては制限が多い領域であり、多くの開設者が実施していると思われる必修領域の学びのコメントを紹介する。
学校種・生まれ年 | コメント |
小学校 1976 | 本日話されていた「学び続けることの大切さ」は、ここ最近自分のテーマでもある。今回で終結とされる免許更新制廃止には大いに賛成だが、こうした学び続ける機会は大切だと考える。個々の立場、仕事内容、興味関心、ニーズなどにより、求める学びは種々異なることは当然である。他方、医師が論文を読み、書き、研鑽を続ける姿からは学ぶものが多く、そうした姿勢に教員として応用できる部分があるように感じた。学びを深める時間の捻出と情熱を持ち続けていきたいと思う。 |
中学校 1987 | 教員の様々な方面における理解が必要だと考えられる。性的マイノリティや学習内容、発達障害など、常に学んでいくことが大切だと感じました。大まかな内容の理解を進めることができました。関係ないと思い学習しないのではなく、生徒と同様に、様々なことに興味を持つことが必要だと改めて感じました。実際に、どのように生徒に対応・指導していくかを常に考え、詳しく学んでいきたいと思います。しかし、課題として、学ぶ環境や時間が今の教員には足りていないと感じます。学ぶ意欲はありながらも、学ぶ環境が整備されていないことは大きな課題だと思います。そのために、教員の仕事の効率化などを考え、タブレットなどのICT機器を積極的に活用し、業務の効率化も考えていきたいと思います。 |
高等学校 1968 | 一人一人の児童生徒が自分の良さや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら社会変化を乗り越え、持続可能な社会の担い手となることができるようにすることが必要である。そのために、生徒理解はもとより教職員の資質の向上を図ることが重要と考えた。 |
小学校 1976 | 今回このような学びの場に参加できありがたく思っております。現在は教員免許を持ちながら、小学校で介助員の仕事をし、個性たっぷりの子どもたち、そして先生方のお手伝いをさせていただいております。日々子ども達の学んでいる姿を見て、私自身もう一度学んでみようと思わされ、新たな目標を立てているところです。日々、子ども達と接しながらも、こうして講義を受け、学べるということにありがたく思っております。今回この必修領域における学びを、2学期からの仕事にもいかしていきたいと思っております。 |
小学校 1991 | 主体的・対話的で深い学びは、高校がまずメインターゲットになっていたということを初めて知りました。確かに、考えてみると、授業も知識詰込み型だったなと思い出しました。そこで、いつも問題視されるのが、小中連携です。私は小学校の教員をしていますが、中学校の授業を見に行くと知識詰込み型の授業が多いなとも思います。それと反対に、中学校の先生からすると、知識がついていない児童が多いとも言われてしまいます。子どもが課題解決型学習で、主体的・対話的に学習を進めていく中で知識もしっかりと習得していくような授業や単元構想をしていくことに自分自身課題を感じています。評価するときも、既有の知識を生かして課題を解決できていたかなどを考えていかなければならないので、教員のスキルアップ、教材研究などは一層重要になるだろうと考えます。現在は、コロナ禍で休校措置がなされ、GIGAスクール構想が前倒しになって進められています。小学校でのタブレットを用いた有効な学習の進め方を早急に考えなければならなくなってきています。どのようなものが有効なのかなども自分自身が勉強して準備していかなければならないと思っています。そうしたことを、じっくり考える機会になりました。ありがとうございました。 |
小学校 1975 | 国の教育施策が、変化する時代そのものに合わせて柔軟に変化していっていることを知り、教育に携わる立場として安心したし、私たちが敏感に受け止めなければいけないことが分かった。今回のような講習の機会がないと、ゆっくりとこのような施策を学習する機会も主体的には得にくいので、よかったと思う。しかし、逆にこのような機会のない教職員は日々の職務に追われ、変わっていく教育についていけず、ただ指導要領が変わったことのみを知って、その深い考え方に触れることなく職務を行っている現状があることが大半であることも知っている。働き方改革の名において、教職員の働き方が変わることが求められているとしたら、意識改革をどのような形でしていかなくてはいけないか、現場の教員一人一人が主体的に考える必要があるだろう。その実現に向けて教職員が学びを体験することが、子どもたちに求める教育的な態度や、主体的・対話的な深い学びを育成することにつながっていくのだと感じた。私ができることは、職場の若手教員と日々切磋琢磨する中で、この講習で得られた学びや考え方を日々の教育活動に生かして使っていく姿を見せたり、語ったりしていきたい。 |
高等学校 1976 | 学校はその制度自体は変化がないままここまできているが、社会の中で学校が求められる役割、伸ばすべき生徒の能力などは変化してきている。また、我々が生徒たちを見るときの観点も変化している。それらをタイムリーに適切に理解しながら柔軟な対応をしていく姿勢が必要であることを改めて感じた。とても聞きやすい講義で、聞きながら考えを整理したり新たなことに気づいたりすることができた。 |
中学校 1989 | 新しい学習指導要領の実施やアクティブラーニング、GIGAスクール構想、SDGs等、時代に合わせて教育も変革しているが、児童生徒だけでなく、私たち教員も適応していくことが求められている。本日の講習を通して、今後、教員として求められる資質、能力や指導における留意点等を再確認することができた。 |
教育委員会 1978 | テキストでは分かりにくいな、と思ったことが、実際の講義を聞いて、分かりやすく感じました。講義でスッと理解できることが多かったです。でも講義だけだと何のことか分からなくなるので、やはり、事前学習は必要なんだな、と改めて思いました。今回の免許更新の講習がなければ、あまり触れない内容だったので、しっかり勉強する機会をいただけてよかったです。ありがとうございました。 |
高等学校 1990 | 今回,必修領域を受講しての感想は,まだまだ私の知らないことがたくさんあると感じました。講義の中でもあったように,私たちは常に学び続けて成長していかなければならないと強く感じました。また,今回はオンラインでの受講者数が少数であり,たくさんの意見を聞くことができたので,少数の受講者数の方が良いと感じました。 |
このようなコメントをもらうにつけて、自分自身が取り組んでいる講習により責任をもって注力せねばと気持ちを新たにする。
そして思うのである、「10年に一度の講習でもこの効果があればいいのではないか」と。「この学びは動機付けであって、それぞれがそれぞれのフィールドで研鑽していく一呼吸になればいいのではないか」「教員を信じていくことこそ必要なのではないか」と思うのである。何しろ個人的には、成果を上げているものをなくす必要はないと考える。星槎で言うと、97%の満足度の講習をなくす必要がよくわからない。アメリカのことわざではないが、“Don’t fix what is not broken.”なのだ。せっかく年月をかけて、落ち着くところに落ち着いてきたのに残念という気持ちでいっぱいだ。
講習の事前アンケートでそれなりの数を占める意見が、実践的な講習をしてほしいというものだ。今までの研修でなかなかそうでなかったのだろうなと感じる。しかしながら、実践的なものにするのは受講生自身なのである。これさえあれば大丈夫などという魔法の杖はあるわけがない。現場で言うと、相手はみな違う唯一無二の存在であり、その状況は二度と同じことなどありえないからだ。学んだことを自分事にして実践していくことが大切だと毎回講義では伝えているし、それを受けた学びのコメントを上記の様に書いてくれてありがとうという感謝の気持ちを受講生には伝えたい。
令和4年度の更新講習の実施予定調査とそれに代わる場合の講習の実施予定調査が文部科学省から届いている。それに合わせて、令和4年度更新講習の申請手続きの案内もだ。第一回申請も合わせて調査締め切りは12月20日とある。通知文には、「令和4年度の途中で本制度が発展的解消される可能性がございます。このため、下記1の内容を必ずご確認いただいた上で、令和4年度の免許状更新講習の開設についてご判断いただきますようお願いいたします。」とある。
下記1とはこうだ。
次期通常国会で法改正が認められた場合、時間を置かずに速やかに施行する方向で検討・調整しており、仮にこうした内容を盛り込んだ法改正が実現した場合、令和4年度の途中で教員免許更新制が発展的解消される可能性がございます。その場合、法律が施行された以降に免許状の修了確認期限又は有効期間の満了の日を迎える者は、免許状更新講習の受講や免許の更新手続の必要がなくなります。令和4年度における免許状更新講習の開設については、これらの見込み等を考慮した上で、ご判断いただきますようお願いします。 |
さあ、どうしたものであろうか。判断いただきたいとのことであるが、これまでのような規模の開催を想定するのは、我々の様な大学では、この状況ではリスクが大きすぎで無理である。更新講習もそれに代わるコンテンツも日本の教育のことを考えたらずっと前から準備しているが、回答のしようがないというのが現状かもしれない。「日本の先生を応援する」という基本コンセプトで、更新講習制度に協力してきたつもりであるが、どうも「過去に感謝して、未来に責任を持つ」という基本的なことが、自分事になっていない方々には、あの頃のO課長の大変さは共感できていないようだ。言葉は丁寧でも、今回も文科省の役人は現場のことをわかっちゃあいない。わからない方がいると困るので、念のために補足しますが「現場のこと」とは現場にいる人間のことですので。「現場」という言葉だけで分かった気になっている方は気を付けてください。
我々としては、それなりの好評をいただいている
1day講習のような仕組みをこれからも考えていきます。そして、資料と状況推移の文脈からすると、更新講習を受講している方は、あらたな研修システムでは研修完了のようになると思われる。それゆえ、個人的には、うちの
1day講習のようなものを利用しておくのがいい気がする。
1day講習も年度内まだありますので、担当の西永教授と共に日程分担して頑張ります。
忘れないようにここにも書きますが、更新制度見直しの目的は「教師の資質能力の確保」「教師や管理職等の負担の軽減」「教師の確保を妨げないこと」ですから。
今回も、毎度毎度の繰り返しになるが、教師の確保のために、教師とは以下のような職業だということを大いにPRできるように環境を整え、実現したらどうか。
「教員の日常は大変かもしれないけど、まとまった休みがある。」
「それなりの給与が保証される。」
「なにしろ、やりがいは十分すぎるほどある。毎日が学びだ!」
こんな生き方をしたいという方は、壮年者も含めてそれなりの数がいそうな気がするのだが、皆さんいかがお考えになるだろうか。今回も宣言するが、私も自分の人生の最後のステージで今一度現場で活動してみたいと思っている口である。
上記に加えて、新卒者向けには、学生支援機構からの奨学金の返還にも配慮することを示してほしい。
現在、学生支援機構の仕組みでは、返還免除になるには、大学院(修士課程・専門職学位課程・博士(後期)課程)修了の優秀な成果を収めた人だけだ。ぜひ、かつての様に教員として未来創造に責任をもって携わる方にも免除を適用していくことが必要なのではないか。
(スケジュール予測)
免許状更新講習規則改正 2021年12月(ほぼ確定。領域問わない30時間)
教育職員免許法改正 省内調整・法案準備
法案提出 2022年1月(最速5月改正法成立)
2022年度受講対象者は、法令施行しだい制度適用見込み
新制度開始 2023年度
(著者紹介) 松本 幸広(まつもと ゆきひろ) 埼玉県秩父郡長瀞町出身のチチビアン。学生時代宮澤保夫が創設した「ツルセミ」に参加。大学卒業後宮澤学園(現星槎学園)において発達に課題のあるこども達を含めた環境でインクルーシブな教育実践を行う。その後、山口薫とともに星槎大学の創設に従事し、いわゆるグレーゾーンのこども達の指導にあたる人たちの養成を行う。星槎大学においては、各種教員免許課程の設置をおこない、星槎大学大学院の開設も行う。「日本の先生を応援する」というコンセプトで制度開始時から更新講習に取り組んでいる。新たな取り組みである、「 1day講習」の講師も務める。 |