2021年9月30日
教員に必要なものとは何であろうか。
目の前のこどもたちをどうにかしたいという熱い思いが、まずは大切であることは衆目の一致するところであろう。そこを基礎として、いかに教員に必要な資質・能力を獲得し、向上させていくのか。未来を創っていく教育に課せられたテーマだ。
さて、9月27日第六回更新講習小委員会が親部会と合同で開催された。
基本方針は前回確認したので、今回は未稿になっていた部分と文言修正をしてパブリックコメントへ回されることとなった。もう後は流れのままである。残念ながら、パブコメはやったというアリバイ作りにすぎないだろう。いずれにせよ、これで省令は改正に向かう。法令改正は来年の通常国会の審議だ。
この会議での前回までの振り返りは、会議資料にまとまっているので振返るのも容易だ。ここには、更新講習制度を発展的に解消せざるを得ない理由は、「改善方策とその限界」という形で記載がある。「改善でどうにかしようと思ったが、とてもそれではダメなんですよ。わかってくださいね。」という説明である。改善の候補をあげて「NO」と言っていくスタイルである。いわく、①すべての大学で意味あるいい更新講習ができるとは言えない。②何をやっても受講する教員の負担感はなくならない。③開設者の負担も消えず、受講料値上げの心配もある。④免除対象者を増やそうとしても誰を対象者にするか線引きができない。⑤ペーパー免許の人は自腹を切って講習を受講するとは考えにくい。
5つの区分でNOの理由を言っているのであるが、そんなこと当たり前ではないか。
だったら初めからやりなさんなとも思うが、新自由主義真っ盛りの教員バッシングの波ではそうもいかなかったのだということも分かる。世の中みんなして、何が悪いって教育が悪い、学校が悪い、先生が悪いって、よく言われたもんだ。今思い出しても腹が立つ。そんな中で育ったこども達は教員になろうとは思わないのは当然の帰結だ。それでも、救いになったのが委員である今村女史(カタリバ)が、こども達の未来のために教育に参画したいと考える方が10人募集のところ500人応募してきたという発言だった。
そして、これらNOと言うのが当たり前のことの根拠を、4・5月に実施した調査の数字をもとに言うのであるが、この数字は自動車運転免許の更新に関してやっても同じ数字が出る程度の話だと私は感じている。なにしろ学びは強制するものではないのである。主体的で対話的な深い学びだって、それを強制すれば成り立たないのは明らかだ。それより、すべての更新講習で文科省が義務付けている受講者アンケートの回答で、講習への肯定的意見が9割超えているものをやめるのも強引な話だ。
これを受けた、9/28の大臣会見では、
「「教師の個別最適な学び」の促進が求められていることも踏まえ、免許状更新講習について、必修・選択必修・選択という領域を来年度から撤廃し、教師本人のニーズに合った受講を可能とする省令改正に取り組んでまいります。現在、中央教育審議会には、「令和の日本型学校教育」を担う教師の養成・採用・研修等の在り方に関する包括的諮問を受けた審議をお願いしています。多様な教職員集団を構成する魅力ある教師の養成・確保に向け、中央教育審議会の議論を踏まえつつ、しっかり検討を進めてまいります。」と述べ、文部科学省は、「このことを受け、令和4年度「免許状更新講習の認定申請等要領」及び「免許状更新講習の開設予定調査」は領域を撤廃してご案内・ご照会致しますので、あらかじめ関係の皆様でご承知おき願います。なお、文部科学省としましては、中央教育審議会において教員免許更新制について方向性が示されつつあることを踏まえ、法制面等の具体的な検討・調整に着手しているところです。」との連絡を開設者である大学にしてきた。
これで少しでも、①と②で示した、いやいや受講を少しはなくなるだろうとのことだが、この中途半端さは吉と出るか凶と出るか。
いずれにせよ、星槎大学では「面白くってためになる」講習を心がけていきますのでどうぞ。可能な方は、今年度中に
1day講習をやってしまうのもいいかもしれない。
閑話休題、更新講習で教員として必要なものを身につけることは可能なのかと問われれば、何年かに一度の講習を受講したところでそれは不可能というのも、更新講習小委員会のまとめを引くまでもなく教員の皆さんにとっては自明なところであろう。
教員免許に期限を設け、更新講習という形を使うのであれば、自動車の運転免許同様、変わったことの確認、つまり現在の必修領域「教育の最新事情」、加えたとしてもせいぜい選択必修領域の合計12時間程度であろう。これであれば、フルに対面講習でやったら、2日間。オンデマンド講習でやっても時間は変わらないので2日間。
星槎大学の1day講習だったら自身のテキストでの学習も時間に含めることができるので、時間で拘束されるのは半日で済む。受講料金は、1日7,000円程度が開設者としてはぎりぎりかもしれない。期限は、5年程度が適当かもしれない。
免許状の有効期限については、教職についていない方は期限が有効で、期限ごとに更新講習が必須となる。一方、教職に就いている方は、教育委員会等採用側の現職教員研修の流れとなり、その中にいる限り免許の期限は無効となり、就業している間は更新が不必要となるのが(更新講習は必要ではない)いいのではないだろうか。
そして、教職課程の認可を受けている大学は、一定規模の更新講習の受講生を受け入れていることが教職課程存続の条件になるという制度も、教職課程設置大学には責任制を持たせるためには必要かもしれない。教員養成のためのリソースはあるはずだから、それを使ってペーパー免許や特別免許・臨時免許の方々に現場に入る際の知見を提供するのだ。「大学に入ったのだから教員免許ぐらいとっておいて」というのは昭和の話であり、教職課程が学生募集のツールに今やならないのも事実である。
この後、1月からの通常国会で現行制度の改正が国会で審議される。個人的には、政令を変えて運用ベースで見直しを図るのがいいのではないかと思っていたが、更新制を発展的に解消する方向で進んでいるのが現状だ。自動車免許と同じく、期限は社会で問題を起こしていなければ5年間で更新。学校に着任し教職を続ける方は実質期限なしとなる。教職課程をもっている大学は、免許発行数と教員採用数に応じて更新講習を実施していく。これらを骨格として審議が進むかもしれない。
これで、検討当初のきっかけの課題となった3つの課題1つ目の「教師の確保を妨げないこと」はクリア。そして教職員支援機構のシステムがしっかりでき現職教員の研修歴など管理できれば「教師や管理職等の負担の軽減」もクリア。その上で、管理職と教員のコミュニケーションがしっかりとれ、教員のOJTも進めば、「教師の資質能力の確保」にもつながっていくと考えられる。この文脈では、学校管理職の資質向上が必須になるので、そこに大学院を活用するのが現実的だ。
毎度毎度の繰り返しになるが、教師とは以下のような職業だということを大いにPRできるように環境を整え、実現したらどうか。
「教員の日常は大変かもしれないけど、まとまった休みがある。」
「それなりの給与が保証される。」
「なにしろ、やりがいは十分すぎるほどある。毎日が学びだ!」
こんな生き方をしたいという方は、壮年者も含めてそれなりの数がいそうな気がするのだが、皆さんいかがお考えになるだろうか。今回も宣言するが、私も自分の人生の最後のステージで今一度現場で活動してみたいと思っている口である。
上記に加えて、新卒者向けには、学生支援機構からの奨学金の返還にも配慮することを示してほしい。
現在、学生支援機構の仕組みでは、返還免除になるには、大学院(修士課程・専門職学位課程・博士(後期)課程)修了の優秀な成果を収めた人だけだ。ぜひ、かつての様に教員として未来創造に責任をもって携わる方にも免除を適用していくことが必要なのではないか。
(スケジュール予測)
免許状更新講習規則改正 2021年11月
教育職員免許法改正 省内調整・法案準備
法案提出 2022年1月(最速5月改正法成立)
周知移行期間 最低1年
2022年度受講対象者は現制度適用
新制度開始 2023年度
(著者紹介) 松本 幸広(まつもと ゆきひろ) 埼玉県秩父郡長瀞町出身のチチビアン。学生時代宮澤保夫が創設した「ツルセミ」に参加。大学卒業後宮澤学園(現星槎学園)において発達に課題のあるこども達を含めた環境でインクルーシブな教育実践を行う。その後、山口薫とともに星槎大学の創設に従事し、いわゆるグレーゾーンのこども達の指導にあたる人たちの養成を行う。星槎大学においては、各種教員免許の設置をおこない、星槎大学大学院の開設も行う。「日本の先生を応援する」というコンセプトで制度開始時から更新講習に取り組んでいる。新たな取り組みである、「 1day講習」の講師も務める。
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